『或る夜の殿様』

基本情報

或る夜の殿様 ★★★★
1946/ST
(2002/1/19 BS2録画)
脚本/小国英雄
撮影/河崎喜久三 照明/横井総一
美術/久保一雄 音楽/鈴木静一
特殊効果/圓谷英一
演出/衣笠貞之助

感想(旧HPから転載)

 明治19年の箱根の温泉地。鉄道敷設を計画する成金一家(進藤英太郎飯田蝶子高峰秀子)に痛い目に遭わされた商人たち(志村喬、菅井一郎他)は彼らに一泡吹かせるため、たまたま居合わせた風来坊(長谷川一夫)を行方不明になっていた華族の嫡男に仕立て上げて、風来坊に取り入り、鉄道会社の社長にまで祭り上げる彼らをまんまと嘲笑うことに成功するが、本物を顔を知る逓信大臣(大河内伝次郎)がやってくることがわかり・・・
 衣笠貞之助の戦後第一作だが、戦後の動乱を微塵も感じさせないどころかハリウッドの同類の映画に引けをとらないソフィスティケーティッド・コメディの傑作。あまりに出来過ぎた小国英雄の名脚本に、アメリカ映画の翻案かと勘ぐってみたくもなろうというものだ。
 風来坊を巡って自由な発想を持つ成金の娘(高峰秀子)と男に尽くす情の厚い女中(山田五十鈴)が絡んでメロドラマとしても見事な構成を成しており、高峰秀子の可憐な美人女優ぶりには目から鱗の感動があるし、相変わらず巧い山田五十鈴の世話女房ぶりと真実を知って恋の破れたラストシーンでの窓越しのアップのえもいわれぬ情感の発露にはまた異なった種類の感動を覚える。ラストのメロドラマに念を入れすぎる辺りはやはり日本映画の演出的弊害という気はするのだが。
 他にも見栄と俗欲の化身ともいうべき成金婦人を醜悪に演じきった飯田蝶子の力量に圧倒され、浪花商人らしい強かさを軽妙に発揮した志村喬の名演も忘れがたい。もっともそのせいで菅井一郎の扱いが小さくなっているのが、勿体ないような気もするが。
 今ではほとんど忘れ去られた存在だが、本作といいその次の「女優」といい、衣笠貞之助終戦直後の作品歴を見ていくとなかなか一筋縄では行かない様相を呈しており、この後作品的に急速に老巨匠の地位に落ち着いてゆくのが不思議に思えるくらいだ。

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