『秘録おんな寺』

基本情報

秘録おんな寺
1969/シネマスコープ
(2001/8/19 レンタルV)
脚本/浅井昭三郎 撮影/牧浦地志 照明/伊藤貞一 美術/西岡善信 音楽/鏑木 創 監督/田中徳三

感想(旧ブログより転載)

 岡っ引きの手を逃れて根岸のおんな寺と呼ばれる尼寺に逃げこんだ娘(安田道代)は徳川家縁の姫様である門跡(しめぎしがこ)が絶対権力で支配する寺の異常さに反抗し、ついに門跡が葛籠に隠して若い役者(青山良彦)を連れ込んで邪淫に耽っていることを突き止めるが、役者を逃がそうとするところを見つかってしまい、残虐な責め苦を受けることに。

 他に中原早苗(!)、長谷川待子といったお馴染みの顔ぶれによる大映末期の徒花、秘録シリーズの一作。

 1968年から1971年の倒産までの3年間に亘って「秘録おんな牢」「秘録おんな蔵」「続・秘録おんな牢」「秘録怪猫伝」「おんな牢秘図」「秘録・長崎おんな牢」とシリーズ化されたエログロ時代劇の第4作。

 石井輝男東映で始めたエログロ時代劇の異常性愛路線に対抗して企画されたものであることは確実だが、シリーズ前半に主演した安田道代の逆境に反抗する女としての新鮮な魅力と大映京都の技術スタッフの底力が燻し銀のようにスクリーンに焼き付いた侮りがたい女性映画となっている。

 この作品も扇情的なエロ時代劇のパッケージの中に大映京都の重厚な映像表現が流麗な墨絵のようなモノクロの映像美を形作っていることに驚かされる。

 田中徳三の作品でもズームや移動が目立っていたこの時期にあって、フィックスを主体とした堂々たる正攻法の引いた構図で押し切り、”寺”という得意の素材を得た西岡善信がとうてい低予算とは思えない質感とスケール感溢れるかつ表現のポイントを絞り込んだ美術セットを披露する。

 しかも、当時の映画技術としては完成され尽くしたモノクロ撮影の粋を凝らした画作りを見せる牧浦地志の渋い影像設計には陶然とするばかりだ。

 実は主人公の娘の兄(木村元)も門跡によって攻め殺されており、その復讐のために寺に潜入したという種明かしがあるのだが、この後の門跡とのクライマックスにおける対決場面が弱く、お約束どおり寺が焼け落ちることになるのだが、せっかく兄の遺品の鼓を出しておきながら復讐の道具として活用しないというのは脚本の詰めが甘すぎるだろう。ラストのナレーションで語られる、鼓を抱えた尼僧のエピソードが悪くないだけに、あまりに勿体ない。

 尼寺を徳川幕府の権力で恐怖支配する狂気の姫君をしめぎしがこという女優が演じるのだが、ここはやはり新劇系のそれなりの女優を据えなければ収まりがつかないであろう。当時の大映の女優陣の層の薄さが恨まれるところだ。(註:しめぎしがこは新劇女優です!)

 そうしたなかにあって、この映画を最後まで健気に支えきったのは安田道代の強い意志の溢れるその表情の美しさであって、敢えて危機的状況に飛び込んで自らの意志で暴虐の真相を究明しようとする気丈な女性像を一種のアクション映画のヒロインとして真っ正面から演じきったその硬質な魅力は当時の増村保造のヒロインほどではないにしろ、確実に時代を先取りしたものではなかったろうか。

 それにしても、牧口雄二の傑作「女獄門帖・引き裂かれた尼僧」と同様のシチュエーションながら、この映像表現の上品さと耽美性こそ大映京都の宝というべきものだろう。 

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