『秘録長崎おんな牢』

基本情報

秘録長崎おんな牢
1970/CS
(2003/6/28 レンタルV)
脚本/高岩 肇
撮影/今井ひろし 照明/黒川俊二
美術/西岡善信 音楽/鏑木 創
監督/太田昭和

感想(旧ブログより転載)

 オランダ人の父と日本人の母の間に生まれて幼いころから”化け物”と差別されて育ってきた娘(川崎あかね)は奉公先の放火殺人という無実の罪で長崎のおんな牢に繋がれていた。役人(近藤宏)のうつつ攻めに屈して罪状を認めてしまったことから磔の刑が目前に迫るある日、混血児を忌み嫌う牢名主(奈良あけみ)が新入りの盲目の女囚(山口火奈子)に命を狙われる。それが情夫(上野山功一)の差し金と知った牢名主は、情夫こそが放火殺人の下手人であることを告白し、真犯人として公儀に突き出すため二人で破獄するが・・・

 円谷プロの「ミラーマン」では脚本も書いていた太田昭和の監督デビュー作。秘録シリーズの中で唯一浅井昭三郎以外の脚本家が手がけた作品だが、そのことが功を奏してシリーズ最高傑作といえる理知的な脚本が出来上がった。

 元牢名主(荒砂ゆき)と新牢名主(奈良あけみ)の交替劇から、新入りの盲目の娘の牢内での不気味な密殺劇、そして明かされる放火強盗の真犯人の存在と、緊密なエピソード構成で無駄の無い語り口は、さすがに大ベテラン高岩肇の筆力の見せどころで、この作品と比較すると、浅井昭三郎が手がけたものは、個々のエピソードには工夫の跡が見られるものの、全体の構成の中で中心点に収斂してゆく構成のダイナミズムと緻密さが希薄であることがはっきりとわかってしまう。

 ただ、主役を演じる川崎あかねが誰がどう観てもハーフには見えないうえに、演技力としても同シリーズの顔であった安田道代に比べると格差が激しいのが惜しまれるところだ。一方、新牢名主を豪快に演じきった奈良あけみという、この時期の邦画界ならではのB級女優が独特の説得力を持って迫る。

 クライマックスでの意外な展開には誰もが息を呑み、呆気にとられるに違いないが、太田昭和の訴えんとするところが、正確に表現されているかどうかは、今ひとつ判然としない。不条理ともいえる運命に翻弄されて刑場に散ってゆく混血児の悲劇に、何を見出そうとしたのか、ラストカットの川崎あかねの表情からそれを読み取るのはいささか困難な作業である。

豆知識

「KYOTO映像フェスタ」の続きですが、大映京都撮影所の制作帳簿が展示してあり、「秘録長崎おんな牢」のページが開いてあったのですが、太田昭和の演出料が7万円、今井ひろしの撮影料が15万円でした。この差は契約形態の違いなのでしょう。

 一方、奈良あけみの出演料が20万円で横山リエ、真山知子らの脇役が10万円なのに主演の川崎あかねは7千円くらいで、戸浦六宏が2万2千円程度の切の悪い金額というのが意外でした。

 川崎あかねは大映の専属だし、戸浦六宏はおそらく当時大映と年間契約のようなものを結んでいたために1本あたりの出演料が異様に安いのでしょう。 というか、戸浦六宏、この映画出てたか?(←ひょっとしてナレーターだったか?)

(2003/12/7)

© 1998-2024 まり☆こうじ