絞殺魔

基本情報

絞殺魔
(THE BOSTON STRANGLER)
1963/スタンダードトリミング短縮版
(2001/6/22 関西テレビ録画)

感想

 1962年、老女から若い娘まで肌の色さえも無頓着に女を絞め殺し続けた実在の殺人鬼を巡って、難航する捜査状況を、当時流行ったらしいスプリットスクリーンの手法を用いたドキュメンタルな演出で社会の病理を生々しく描写する前半と、犯人が逮捕された後、自分の中に潜むもうひとつの人格の存在を捜査陣が思い出させてゆくありさまをじっくりと演じさせた後半からなるリチャード・フライシャー監督の「10番街の殺人」と並ぶ犯罪実録路線の傑作。

 というのが公式見解なのだが、なにしろ旧いマスターを使用した吹き替え短縮版での放映なので、まだこの映画の真価の一部分しか眼にしていないというのが正直なところだ。街に巣くう変質者に焦点を絞った捜査過程で描かれるアメリカ社会の根深い病理をサスペンス豊かに描き出してリチャード・フライシャーの卓越したサスペンス技巧を誇示する前半部分にはヨーロッパから呼び寄せた霊媒師による捜査のシーンがあったはずだし、犯人が遂に自分の中に存在する残虐なもうひとりの自分を認識して人格崩壊を予感させて唐突に終わるラストにはなんらかのコメントが字幕として提示されていたはずなのだ。

 前半のトリッキーともいえるスプリットスクリーンを駆使した奇抜な映像スタイルは後半でも犯人の回想シーンで引き続き活用され、今やせいぜいブライアン・デ・パルマのサスペンス映画くらいでしかお目にかからないある意味で古風な画面構成がもっとも巧く利用された作品といえるだろう。

 宇宙飛行士のパレードとケネディ大統領の国葬アメリカの光と影を象徴する出来事のTV中継をバックにした二重人格者の連続殺人という脚本の構成が見事にツボにはまり、「見えない恐怖」でも披露したリチャード・フライシャーの超絶技巧が時代の暗部を怜悧なサスペンスとして摘出してみせてくれる。

 しかし、アメリカでもビデオすら発売されないのは、現実の事件を扱った映画に特有の複雑な背景事情が存在することを予想させる。はやくDVDが発売されないものか? 

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