三人姉妹 ★★☆

■作・アントン・チェーホフ 上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 劇場:Bunkamuraシアターコクーン

■出演:余貴美子宮沢りえ蒼井優山崎一、神野三鈴、段田安則、堤 真一、今井朋彦近藤公園遠山俊也、猪俣三四郎、塚本幸男、福井裕子、赤堀雅秋
■なんといても配役の豪華さで目を引くケラ版三人姉妹なんだけど、チェーホフはもともとあまりピンとこないので、本作もどこを面白がればいいのかなあという印象。ケラの潤色でくすぐりが盛り込まれているので、にやにやしながら観られるのだが、終幕以外はあまり心が動かない。

■意外だったのは堤真一が非常に舞台映えすること。いつものあの調子なんだけど、テレビや映画では胸焼けするしつこい個性が舞台ではちょうどいいバランスで収まるから不思議。あの人のエキスの濃さは舞台向きだったのか。山崎一はこれまたいつもの役柄を楽しそうに演じてくれるので、安心して観ていられる。段田安則はテレビなどで酷薄で冷酷な特殊人物を演じて説得力を持つひとだが、守備範囲の広い人で、ここでは老け役で配役の要となっている。でも、テレビで嫌味な人物を演じている方が、上手いと感じるなあ。

蒼井優はそりゃこれくらい演じられるし、意外な感じはしない。まあ、退屈はしないのだが、それ以上に胸に迫るところのない舞台で、最近NHKで観るケラの演劇はすべてそんな感じがするなあ。

グッドバイ ★★☆

■脚本・演出:ケラリーノ・サンドロビッチ、美術:中根聡子、照明:関口裕二、音楽:鈴水光介、劇場:世田谷パブリックシアター(2015)

■出演:仲村トオル小池栄子水野美紀夏帆門脇麦町田マリー緒川たまき萩原聖人池谷のぶえ野間口徹山崎一
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わたしの星 ★★★☆


■作・演出:柴幸男、美術:青木拓也、照明:伊藤泰行、劇場:三鷹市芸術文化センター 星のホール(2014)

■放送版 撮影:福本淳、ディレクター:真利子哲也

■出演:生駒元輝、坂本彩音佐藤まい、西片愛夏、西田心、札内茜梨、山田奈々緒、吉田圭織、吉田恵、吉永夏帆

■夏休みの終わり、文化祭に向けて出し物の稽古をしている私に向かって、幼馴染のスピカはいきなりこう言った。明日、火星に転校するって。地球温暖化で住めなくなった地球。みんな火星に移住して、僅かな人類しか残っていない日本。幼いころからずっと一緒に育ち、学校もずっと一緒だったスピカ。でも最近距離を置くようになってしまったスピカ。それは自分の僻みのせいだ。それはわかっているけど。。。

NHKのプレミアムステージで観たのは大分、前だけど、改めて録画を見直してみた。女子高生約10名がわちゃわちゃと楽しそうに演じる舞台。舞台俳優ではなくオーディションで選ばれた素人高校生たちが演じる舞台。でも、ちゃんと演劇になる。それが演劇の面白いところ。

■舞台装置の転換はなく、もっぱら照明の効果で場面の設定を変化させる。これも演劇ならではのもの。夏休みの終わり、星の生命の終わり、難病による人の生命の終わり、幼かった友達関係の終わり。時間の有限性が幾重にも重ね合わされる青春SFドラマでもある。でもそれは一方通行の有限ではなく、どこかに繋がっていて、円環を描いているに違いない。そのことを舞台装置と照明が描く円環で表現する。

■意外に古風な胸キュンドラマで、感情が激してくるとほっぺた平手打ちとか出ますから、昭和テイストなんですね。令和の時代に平手打ちは通用するのか、女子高生に聞いてみたいところだ。

■ちなみに、もともとの戯曲「わが星」は2010年の岸田國士戯曲賞を受賞している有名作だ。

元禄港歌 千年の恋の森 ★★

■作:秋元松代 演出:蜷川幸雄 音楽:猪俣公章 劇中歌:美空ひばり 衣裳:辻村寿三郎 美術:朝倉摂 照明:吉井澄雄 劇場:Bunkamuraシアターコクーン(2016)
■出演:市川猿之助宮沢りえ高橋一生鈴木杏市川猿弥、新橋耐子、段田安則
■昔の舞台の再演で割と評判がいいらしいのだが、一体どこが良いのか理解に苦しむ。筋立てそのものにも無理やり感があるし、お話の構築も骨組みだけしか見えず、基本的に段田安則のドラマであるはずなのに、中心としてしっかり描かれていないから、どこにドラマの芯があるのか掴みにくい。
■葛の葉伝説とゴゼと流浪の念仏信徒(障碍者やらい者たち)といったマイノリティを扱う劇になっているのだが、そのことが十分に追及されいないので、ただの道具立てにしか見えない。ドラマ的に昇華されていない。段田安則の演技もいいと思わないなあ。この人、むしろ映画やテレビのほうが癖のある味が出ているような気がするなあ。
■これねえ、きっと宝塚歌劇で再構築するといい作品になると思うよ。宝塚歌劇はマイノリティ劇には定評があるからね。段田安則の役どころも宝塚ならぴったりの位置にハマるはずだ。

抜目のない未亡人 ★★☆

■原作:カルロ・ゴルドーニ、上演台本・演出:三谷幸喜、出演:大竹しのぶ岡本健一木村佳乃中川晃教高橋克実八嶋智人峯村リエ遠山俊也春海四方浅野和之小野武彦段田安則

■原作の戯曲を三谷幸喜が大幅に書き換えたものらしい。確かにテンポは速いし、くすぐりも楽しいので、退屈はしないのだが、何がしたかったのだろうという疑問だけが残る。大竹しのぶもなあ、決して上手いとも言えないし、痛々しいというのも違う、なんだろうこのいたたまれなさは。映画祭を舞台に、映画監督と往年の大女優の復帰作を競って織りなす喜劇だが、その映画に関するやり取りの底の浅さも、あえて観客に親切にそうしているのかもしれないが、観ていて痛い。

■脇役では峯村リエが目立つし、高橋克実の異形感がなかなかの見どころ。北村想の『グッドバイ』でも怪優ぶりが目立ったけど、この人テレビではお茶の間向けの親しみやすい風貌を見せるものの、案外変な味を持っている。スペインの映画監督を演じて中盤の見せ場をさらう。変にマッチョなガタイが異形感の源泉だな。木村佳乃も、こういうのを役不足と言うんだろうなあ。

書く女 ★★★

■永井愛作・演出による樋口一葉の半生記。永井愛は以前観た『かたりの椅子』がえらい傑作だったのだが、本作はそれにはとても及ばないなあ。黒木華の演技もうまいのかどうかよくわからない。
■貧乏と闘いながら生活のために家族を背負って小説に邁進することになる一葉の姿を、じめじめとならないように、明るくカラッと描くのは好感が持てるし、てきぱきと進行する舞台は楽しいのだが、正直人間の表現に深みがないなあ。日清戦争前後の世相の変化に対する目くばせも、それ以上に踏み込んでいないので、中途半端。
■林正樹の作曲と生演奏は非常に快調で、この舞台の魅力の半分くらいは負っている気がする。
■【出演】黒木華平岳大朝倉あき,清水葉月,森岡光,早瀬英里奈,長尾純子,橋本淳,兼崎健太郎,山崎彬,古河耕史,木野花,【音楽】林正樹

グッドバイ ★★★

■作・北村想、演出・寺十吾、出演・段田安則蒼井優柄本佑半海一晃山崎ハコ高橋克実

■お話は意外とウェルメイドな人情劇に見えるけど、蒼井優の前半の無茶なキャラクター造形と立て板に水の超絶河内弁の面白さとか、山崎ハコが『きょうだい心中』を熱唱したりとか、なんだか得体の知れない昭和テイスト満載の演劇。北村想お演劇は見たことないのだが、こういう作風なのか?

柄本佑はやや役不足気味ではあるが、蒼井優が早口でまくし立てる演技って、初めて観たので新鮮だったね。後半はいつものペースに戻るのだが、前半のスピード感で圧倒して欲しかったなあ。山崎ハコがとても元気そうだったので、なんだかほっとしたよ。『きょうだい心中』は圧巻で聞き応えあるしね。
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長崎しぐれ坂 ★★★☆

長崎しぐれ坂
2005年 宝塚星組公演
原作■榎本滋民 脚色■植田紳爾 作曲・編曲■吉田優子 装置■関谷敏詔 演出■植田紳爾
出演■轟悠湖月わたる檀れい安蘭けい真飛聖白羽ゆり陽月華

■長崎出島で再会した幼馴染の三人の男女の心模様を描く人情劇だが、要は『望郷』の翻案。原作自体がそうらしい。本来なら江戸無宿の伊佐次が主役となるところだが、本作は彼を追って江戸からはるばる流れてきた下っ引きの卯之助が実質的な主役となっている。彼が何故他の役人に伊佐治を渡そうとしないのかという心根の痛々しさが物語の核心になっている。そして、その切々とした真情が明らかになる終盤は、泣かせる。

■正直なところ約20分たっても歌ったり踊ったりするばかりでお話が始まらないので相当イライラする構成だし、前半部分はどうも演技(豪華な若手もまだ錬度が足りない)も作劇も冴えがなく、失敗作かと思いきや、伊佐治の思い人であるおしまを彼から引き剥がそうと画策するあたりから劇的な面白さが際立ってくる。ここで登場する和泉屋庄兵衛を演じるベテラン立ともみが抜群の感性を見せ、大阪商人のお大尽の姿を活き活きと描いてみせる。序盤は敢えて面白すぎないようにバランスをとるというのは昔の映画や演劇に共通するドラマツルギーだが、今や映画界では絶滅してしまった。だが、宝塚にはちゃんと生き残っていたよ。敢えて面白く作らないという計算は非常に重要な作法だと思うぞ。(でも冒頭の20分はちょっと長すぎだよ。)

■なんといっても卯之助を演じた湖月わたるが好演で、生来片足の悪い若者の、幼馴染に寄せる友情を超えた想いの激しさを抑制の効いた立ち居振る舞いで見せる。男は人前で涙をみせるもんじゃないと言われ、ぐっと涙を堪えるラストは、劇場よりもテレビ中継の方がよく効果が出ているはずだ。

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