ザ・マジックアワー ★★★

ザ・マジックアワー
2008 スコープサイズ 136分
ユナイテッドシネマ大津(SC4)
脚本■三谷幸喜
撮影■山本英夫 照明■小野晃
美術■種田陽平 音楽■荻野清子
VFXプロデューサー■大屋哲男 VFXスーパーバイザー■渡部彩子
監督■三谷幸喜

佐藤浩市が本格的にコメディ演技に開眼した純粋コメディ映画だが、本作の肝であるナイフを舐めるシーンに至るまでが少々長い。しかも、そこに至るまでにほとんど笑える場面が無いので、大丈夫かと観ていて心配になってしまう。三谷映画の最高傑作という声もあるが、決してそんな大層な映画ではない。全く何も心に残らない乾いた純粋なコメディ映画としてはそれなりによく出来ているが、ラストの趣向などは工夫が足りず、随所に無理が見え隠れする。佐藤浩市で笑わせるという作者のテーマは十分に果たされているから、その意味では成功作とは言えるだろう。

■映画デビュー作以来、三谷幸喜はものを作る人の自負心と喜怒哀楽を一貫して追求してきた。端的に言えば、作家としての自分自身に対する考察、自己言及をコメディの形に紡ぎ続けてきた間口の狭い映像作家である。今回は、遂に映画の作り手を実質的な主役に据えたが、映画についての映画ほど気をつけないとナルシシズムに陥る題材はないわけで、観ていて恥ずかしい部分も多い。具体的なタイトルは省くが、あんな映画やこんなテレビドラマのことが脳裏をかすめて通るのだ。

■ギャング相手に、映画の撮影と思い込んで伝説の殺し屋を演じる大部屋俳優というスリリングなコメディ設定で、中盤を佐藤浩市が大熱演するのは、確かに楽しいのだが、ラストの趣向は陳腐すぎて、尻すぼみという印象だ。むしろ山本英夫キャメラ深津絵里を完璧に描き上げた点を大きく評価したい。前作「有頂天ホテル」でなぜか薄暗い印象だった画調を改めて、たっぷり肉厚のフィクション的な映像設計で、ひたすら美しく映し出す。正統派女優深津絵里に惚れ直した一作であった。欲を言えば、もっと歌を披露して欲しかった。

■それと、榎木兵衛が演じた、撮影所の特殊効果技師の名前が”なべちゃん”なのは、東宝撮影所だけに渡辺忠昭に敬意を表したものだろうか。もっぱら特撮班の人だと思うのだが、案外スタジオ内では有名人だったのか?

■製作はフジテレビと東宝、製作プロダクションはシネバザール。

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