長崎しぐれ坂 ★★★☆

長崎しぐれ坂
2005年 宝塚星組公演
原作■榎本滋民 脚色■植田紳爾 作曲・編曲■吉田優子 装置■関谷敏詔 演出■植田紳爾
出演■轟悠湖月わたる檀れい安蘭けい真飛聖白羽ゆり陽月華

■長崎出島で再会した幼馴染の三人の男女の心模様を描く人情劇だが、要は『望郷』の翻案。原作自体がそうらしい。本来なら江戸無宿の伊佐次が主役となるところだが、本作は彼を追って江戸からはるばる流れてきた下っ引きの卯之助が実質的な主役となっている。彼が何故他の役人に伊佐治を渡そうとしないのかという心根の痛々しさが物語の核心になっている。そして、その切々とした真情が明らかになる終盤は、泣かせる。
■正直なところ約20分たっても歌ったり踊ったりするばかりでお話が始まらないので相当イライラする構成だし、前半部分はどうも演技(豪華な若手もまだ錬度が足りない)も作劇も冴えがなく、失敗作かと思いきや、伊佐治の思い人であるおしまを彼から引き剥がそうと画策するあたりから劇的な面白さが際立ってくる。ここで登場する和泉屋庄兵衛を演じるベテラン立ともみが抜群の感性を見せ、大阪商人のお大尽の姿を活き活きと描いてみせる。序盤は敢えて面白すぎないようにバランスをとるというのは昔の映画や演劇に共通するドラマツルギーだが、今や映画界では絶滅してしまった。だが、宝塚にはちゃんと生き残っていたよ。敢えて面白く作らないという計算は非常に重要な作法だと思うぞ。(でも冒頭の20分はちょっと長すぎだよ。)
■なんといっても卯之助を演じた湖月わたるが好演で、生来片足の悪い若者の、幼馴染に寄せる友情を超えた想いの激しさを抑制の効いた立ち居振る舞いで見せる。男は人前で涙をみせるもんじゃないと言われ、ぐっと涙を堪えるラストは、劇場よりもテレビ中継の方がよく効果が出ているはずだ。

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