今度は陰謀史観は控えめ!(だよね?)『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』

■前著に比べると陰謀史観は控えめで、むしろふつうに正史(及び秘史)に近い印象。陰謀史観界隈で有名なコミンテルンは既になく、極東コミンフォルムが登場するけど、それほど陰謀に成功しているわけではなさそう。確かに、いろいろ企み(というかこうなればいいなあという願望?)はしたけど、世の中そんなに単純じゃない。

共産党の策謀と朝鮮戦争の背後関係が中心で、歴史的な基本ラインは知っているけど、いろんな資料が引用されるのが楽しいし、新鮮。コミンフォルム批判による所感派と国際派の対立、五全協による武装闘争路線(中核自衛隊山村工作隊祖国防衛隊とか)といった、ある意味基本的な事項が、読みやすく、興味深く書かれているところは、素直に美点だと思います。

■このあたりは、専門家たちは非常にこだわりが深いので、詳述すると複雑になりがちなところだけど、他の類書よりも読みやすく、するすると頭に入りますね。しかも、改行が(適切で)多めで、新書としては分厚い370頁の本ですが、サクサク読めて気持ちいい。これ、実は重要なポイントだと思います。この時代は、天皇がほとんど登場しないので、天皇だけに敬語で記述する、保守論壇特有の取って付けたような違和感も感じなくてすみます。

■中国共産軍と戦った台湾を日本の旧軍人たち(根本博とか、白団とか)が支援した話とか、朝鮮戦争に直接参加した日本人たちの話とか、著者の政治的スタンスを離れて、興味深いし、あまり話題にならない秘史の部分なので、単純にもう少し知りたいと思いますよね。しかも、朝鮮戦争体制(?)はいまだに日本にも直接的な影響を与え続けているのだから、朝鮮戦争は半島における他人事ではないのです。ということを、最近やっと理解しました。朝鮮戦争で日本は特需によって経済復興を遂げました。それはそうだけど、朝鮮戦争で日本人も直接戦争に参加したり、戦争協力したわけで、そもそも朝鮮戦争に出ていった在日米軍兵站面を散々担ったわけですからね。それを朝鮮特需で片付けると語弊がありますね。今も自民党(及び一部財界)が虎視眈々と狙っているのは、米国に戦争させておいて朝鮮特需にような防衛関係特需でもういちど大儲けしたいなあということでしょうね。

在日米軍が全部朝鮮半島に出ていって、防衛が空白になった日本で、共産党ソ連の指示で武力革命闘争を企図して暴れまわるわけで、このままではヤバいので軍隊の持てない(はずの)日本に警察予備隊が組織される。確かに、この時期にソ連が北海道に攻め入れば、北海道は放棄せざるをえない危機はあったでしょう。まあ、この辺は正史の部分ですかね。朝鮮戦争の記憶に関しては、宮崎駿が『コクリコ坂から』で言及してますよね。少女漫画の世界に唐突に朝鮮戦争のLST(米軍用の戦車揚陸艦)運用の話がぶち込まれて、皆を当惑させましたね。掃海部隊ならまだ分かるけど、LSTてなに?あれは、駿から息子、吾郎への挑戦状だったと思います。
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在日朝鮮人たちが朝鮮戦争に志願兵として参加したけど、祖国では差別されたといった話も、ホントは誰かが映画化してほしいけど、日本では無理なので、韓国映画でぜひお願いしたい。

参考

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李承晩ラインを扱った、水木洋子今井正の傑作映画。忘れられた傑作。ホントに良いので、驚きますよ。
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