あの日、チェルノブイリで何があったのか?現実の重さに心が押しつぶされる、えげつない傑作!HBOミニシリーズ『チェルノブイリ』(ネタバレ有)

2019 チェルノブイリ(全5話) ★★★★★

■ついにあの2019年の配信ドラマ『チェルノブイリ』に挑戦です。正直、辛すぎて観るのが怖かったのですが、それにしても後世に残る超問題作のドラマなので、少しずつでも観すすめたいと思います。

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第1話「1時23分45秒」は、1986年4月に、チェルノブイリ原発で想定外の大事故が発生。担当の副技士長は無責任、所長らの管理組織は官僚主義で事態を甘くみて抑え込もうとする。そんな中、放射線量の情報もとれない現場の最前線で次々と放射線障害で職員や消防署員が斃れてゆく。さらに死の灰は付近のプリピャチの街に降り注いでいた。

第2話「現場検証」は、原子力専門家のレガソフ博士(ジャレッド・ハリス)が調査担当になり、炉心だけにあるはずの黒鉛が建物外に散乱していることから、原因は不明だが原子炉が爆発したことは確実との心象を抱く。博士の進言で党中央委員会はヘリを使った砂とホウ素の投入作戦を開始する。一方、白ロシア原子力研究所のホミュック博士(エイミー・ワトソン)は、大気中の放射性物質を観測して原発事故を直感し、現場に乗り込むと、地下貯水槽に大量の水が溜まっていて、政府の作戦ではいずれ巨大な水素爆発が起こると進言する。中央委員会は原発技術者3人の決死隊を志願させ、現場に送り込むが、膨大な放射線の影響で進路を見失う。

暫定的な感想①

■第1話は噂に違わぬ容赦ないえげつなさで、放射能の恐怖を実感させる。強大な放射能を制御しようとすることが、どれほど人智を超えた試みなのか、そのバランスが崩れたときに、人間はどうやって死んでゆくのか。目に見えない弾丸を全身に無数に受けながら、即死に近いかたちで斃れるもの、何年も苦しみながら息絶えてゆくものを、大量に生み出す。発電用のタービンを湯気で効率的に回したい、たったそれだけの原始的な仕掛けのために原子力エネルギーを使うことで、人間社会は、地球環境は、どれほどの危険を抱え込んでいるのか。そのことを一目瞭然に悟らせる啓蒙力を持っている。

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第3話「KGBは、地下貯水槽の水抜きには成功するが、作業にあたった3人は被爆によって確実に死ぬ運命だった。ホミュック博士は病院で原発職員から聞き取り調査すると、停止ボタンを押したあとに炉心が爆発が発生したことを知るが、依然、原因は不明だ。構造上、爆発はありえないからだ。水素爆発は回避できたが、こんどはメルトダウンが進行、炉心地下に冷却装置を設置するために、炭鉱夫100人を投入し、人海戦術で作業を進めるが、彼らも放射線被爆で全滅する運命だった。一方、党中央委員会では原発付近の事後対応の協議が始まるが、今後現場作業にあたる人員数千人が被爆で死亡することが了承される。当日消火作業にあたった消防官がついに死亡するが、鉛の棺は溶接されたうえ、コンクリートで密封されて埋葬されるのだった。

暫定的な感想②

■もうね、さすがに観ていると気持ちが落ちすぎるので、一気に観るのは控えています。精神衛生上、相当な配慮の必要な作品であることは確実です。うつ気味の人は避けたほうがいいと思います。それほど絶望的で怖いドラマ。激烈な放射線被ばくが人体をいかに破壊してゆくか、それをストレートに描く。直視しがたい現実に、心が押しつぶされる。一方で、事故現場付近の回復にあたるのも膨大な人力が必要で、数千人にのぼる彼らは、完璧な放射線防御措置が不可能で、被爆により寿命をまっとうすることはできないことが政府内で承認される。事故の調査に当たる博士と閣僚会議副議長もいずれがんや白血病で早逝することは避けられない。絶望が大きすぎて、言葉も出ない。。。

第4話「掃討作戦」は、原子炉建屋の屋上に残る黒鉛を排除するために月面作業車が投入されるが、いちばん放射線濃度の高い場所では機能しないので、西ドイツから最新鋭ロボが調達される。だが、それもだめとわかると、レガソフ博士は”生体ロボット”、つまり人間(!)の投入を進言する。限界時間90秒の人海戦術作業で、最も危険な黒鉛の排除を行うのだ。防護服を装着しているとはいえ、彼らも寿命をまっとうすることができないのは自明だった。ホミュック博士の調査で、炉心爆発がありうる原因を予言していた論文が発見されるが、核心部分2頁は削除されていた。避難地域では残された動物たちの掃討作戦が続くなか、レガソフ博士はIAEAに真実を報告しようと決意する。

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第5話「真実」では、IAEAでは原因の核心を暴露できなかったレガソフ博士が裁判で真相をぶちまける。事故の発端は4号炉完成の嘘の報告を後付けで補うための安全性実験の無理強いだった。副技士長の乱暴で不誠実な現場指揮で緊急停止ボタンを押さざるを得ない事態に陥るが、コスト重視のRBMK原子炉には構造的欠陥があり、そのボタンが逆に炉心温度の急上昇の契機になる可能性を、知らなかったのだ。その欠陥を指摘した科学者の論文を党が隠蔽したせいだ。嘘の代償は必ず払わなくてはならない。そう指摘したレガソフ博士は、KGBの監視下で社会的な地位を全て奪われ、その後自殺を遂げる。現場指揮にあたった閣僚会議副議長(ステラン・スカルスガルド)は4年後に亡くなり、地下トンネル掘削作業にあたった人足のべ400人のうち100人は放射線障害で亡くなったが、貯水槽の水抜き作戦にあたった決死隊3人の原発職員は、その後も生存していた(!)という。原発事故の実際の被害者の総数は、誰も把握していない。永遠に不明のまま終わるだろう。(完)

総括

■エイミー・ワトソンが演じた女性科学者は、実際には複数の科学者の働きをドラマ的に集約したもので、フィクションの部分。製作の中心は、クレイグ・メイジンという人で、監督は同人とヨハン・レンクという人だけど、実にレベルが高いので驚愕ですね。VFXも異様にレベルが高くて、どこからが合成なのか判別がつかない。どんだけ金かかってるのか?

■基本的に実録ドラマなので、とにかくハードで、とことんハード。日本で作ると必ずお涙頂戴の部分が絡むけど、一切ありません。安易な涙は必要ないからだ。結局おれは党から”捨て石”にされたんだと嘆く、すでに白血病を発症した閣僚会議副議長に、あんたがいたおかげで事故は終息したんだ、あんたは英雄だとレガソフ博士が慰める場面は、ある意味ふたりのクライマックスで泣かせるいい場面だけど、決してベタベタに撮らず、さらっと演出する。日本映画なら、大仰な音楽が流れて、俳優が涙やら鼻水やらだらだら垂れ流すところだけど、あちらさんはそんなブサイクでカッコ悪いことはしませんからね。負けですわ、完全に。

■最終的な裁判での結論はある意味でありきたりで、尻すぼみ感も否定できないけど、とにかく前半で放射線の恐怖をこれでもかと描いた部分は今後人類共通の財産になるだろう。劇症の放射線障害で激しく身体が朽ちてゆく原発職員、炉心の消火にあたって、最初は元気そうだったのに徐々に壊死してゆく消防士のその人体損壊のプロセスを見せるあたりの腹の座った姿勢は、やはり貴重なものだと思う。それが現実なのだ。そして、こんな重たいドラマにおそらく何年も関与した中枢スタッフの胆力に驚嘆する。よく重圧で心が潰れなかったよね!

■あわせて、一党独裁政治の恐ろしさもよく描かれていて、教条的な主張や説明台詞はないのに、労働者の国であるはずのソ連で、結局は労働者の命を大量に使い捨てすることで事故を終息させた政治的判断の非人道性が際立つようになっている。そこには科学者であるレガソフ博士も心ならずも関与していて、原子炉建屋屋上の黒鉛除去を人海戦術で行わせている。もちろん、他に方法がなかったからだし、だから、自ら命を断つことにもなったのだろうけど。それにしても全てがあまりにひどすぎる。。。

■ある意味、人民英雄的な働きを見せて、激烈に被爆した労働者のおじさんたちや多数の兵士たちも、演出的には淡々としていて、変に誇張したり煽ったりしない。実際は、大勢が死んだはずなのだが。一方、未曾有の大事故の原因を作った所長以下の三人組は10年間の強制労働のあと、シャバに戻ったという。ああ、やりきれない。。。

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