基本情報
死の十字路 ★★★☆
1956 スタンダードサイズ 101分 @アマプラ
企画:柳川武夫 原作:江戸川乱歩 脚本:渡辺剣次 撮影:伊藤武夫 照明:吉田協佐 美術:中村公彦 音楽:佐藤勝 監督:井上梅次
感想
■新興宗教にハマる狂信的な妻を誤って殺害した社長は、ダム底に沈む村の井戸に遺体を遺棄しようとするが、魔の十字路で交通事故を起こした間に、もうひとつの見知らぬ男の死体が転がり込んでくる。。。
■この時代にハリウッド映画でもたくさん作られたスリラー仕立てのミステリーで、お手本通りに丁寧に作られた良作。ただ、日活映画には怪奇映画やスリラー映画の伝統が薄いので、照明設計などの練度は甘い。本来ならもっとコントラストの強い映像設計になるところだが、日活映画はグレートーンが基調なので、本作も陰影は浅い。アパートの部屋の中のフラットな照明なんて、成瀬映画かと言う感じ。でも、監督の井上梅次がわかった人で、特に前半の死体遺棄に至る心理描写とお約束どおりの愉快なスリラー演出が絶品で、楽しませてくれる。
■特に役得は、新興宗教に凝っていて「半キチガイ」で「男みたいな女」と、被害者なのに警察に揶揄されてしまう主人公の妻を演じた山岡久乃だ。夫の愛人を殺しに来たのに、(なにしろ相手が三國連太郎なので)逆に夫に殺されると、その後は死体演技の見せ場となる。当然、怪奇な照明を浴びて、眼をカッと見開いて死んでいるだけなのだが、要所要所での恐怖演出は冴えている。
■さらに、そこに画家の大坂志郎が頭部を強打して死の間際に社長の車に転がり込むというご都合主義で、社長は二体の死体を抱えることに。このあたりの強引な展開が、死の十字路たる所以だが、愉快このうえない。当然、大坂志郎の死体も、三國連太郎を震え上がらせる。
■それにとどまらず、死んだ画家にそっくりな男が後半に探偵として登場するから、ご都合主義も極まれりだが、その方が面白くなるからこれでいいのだ。
■主人公は三國連太郎が精神的にギリギリ追い詰められる社長を演じて、さすがに説得力があるのが凡百のB級スリラー映画との違いで、その秘書で愛人は新珠三千代なんだけど、演技的な見せ場は少なくて、入浴シーンもあるお色気担当という異色。大坂志郎の画家に絡むのが芦川いづみと三島耕のカップルで、三島耕はこのあと東宝に移籍したが、脇役に徹することになる。芦川いづみも本筋に絡むのかと思いきや、顔見世程度ですね。事件の鍵を握る、背中に仏壇を背負って白犬を連れた白痴の浮浪者という、いくらなんでも謎すぎるキャラクターを沢村國太郎が演じる。さすがに意欲作だったらしく、配役が無駄に豪華だね。
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参考
ハリウッド的な乾いたサスペンス・スリラーといえば、この傑作『悪魔の接吻』。
maricozy.hatenablog.jp