『悪魔の接吻』

基本情報

悪魔の接吻
1959/CS
(2003/5/24 衛星劇場録画)
脚本/高木 隆、加藤俊雄
撮影/中井朝一 照明/隠田紀一
美術/中古 智 音楽/池野 成
監督/丸山誠治

感想(旧ブログから転載)

 小さな洋品店の社長(河津清三郎)はホステス(草笛光子)にそそのかされて妻(坪内美詠子)を殺し、店の運転手(佐原健二)と無理心中に見せかけようと計画、妻の死体を積んだ車に時限爆弾を仕掛けて甲府へ向かわせる。ところが、ひょんなことからその車に社長の姪(笹るみ子)が乗り込んでしまう。爆発の時刻は刻々と迫り、社長は警察に通報しようとするが、ホステスがその手を遮る。ついに爆発の刻限がやってくる・・・その時。

 なんと東宝の超大作「日本誕生」と同時上映されたらしい低予算の小品映画だが、サスペンス映画としての完成度は間違いなく一級品で、まさに隠れた逸品と呼ぶにふさわしい、知られざる小傑作である。

 「この映画の結末はまだ観ぬ人には決して口外しないでください」と物々しい字幕が巻頭に置かれるだけあって、実に本格的なサスペンス映画で、二転三転する巧妙なプロットが丁寧な演出技法によって、実にフェアに判り易くたくみに整理されており、この種の日本映画ではおそらくベストの部類に入る完成度の高さだ。丸山誠治のいかにも東宝らしい上品な演出スタイルと相まって、アメリカの犯罪映画やサスペンス映画を思わせる小洒落た作風に仕上がっているところが貴重だ。

 あおった構図や、ローアングルなど、当時の東宝映画では例外的なスタイルをここぞというタイミングで提示しながら複雑な人間関係と伏線を正確に観客に提示していく手際は水際立ったもので、怪談映画風のショッカー狙いの趣向も見事に決まり当時の同種のアメリカ映画と比較しても、決して引けをとらない完成度は驚異的といってもいいくらいだ。

 案外小心者で計画の進行とともに激しく憔悴してゆく河津清三郎の演技も見ものだし、悪女を演じる草笛光子はもう少し爛熟の色気がほしいところだが演技的には安心して観ていられる巧さを見せ、われらが佐原健二は役得の大活躍で代表作と呼んでも差し支えないだろう。後半の変貌ぶりは「マタンゴ」への伏線にもなっているかもしれない。この映画を観れば、もし丸山誠治が「マタンゴ」を撮っていたら・・・なんて夢想も沸いてくるというものだ。

 さらに刑事を演じる清水元とか、後半の映画の焦点となる笹るみ子といった脇役たちの役どころを心得た好演もこうした小品ならではの愉しみといえるだろう。

 衝撃(と言っては言いすぎだが)のラストも、佐原健二のリアクションのアップショットの挿入が効果的で、理想的といえる見事な幕切れだ。

 東宝のフィルム倉庫にまだこんな隠し玉が眠っていたとは。東宝黒澤明円谷英二といった商売の約束されたスター監督にばかり頼っていないで、自社所有のこうした財産を発掘して売ってゆく努力を少しはするべきだと思うぞ。

参考

maricozy.hatenablog.jp
東宝って、こういう映画も得意だったのだ。日活映画ではこうはいかない。
maricozy.hatenablog.jp

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