世の中は若者の犠牲で成り立っていることを親切に教えてくれる教育的ヤクザ映画!『斬り込み』

基本情報

斬り込み ★★★
1970 スコープサイズ 88分 @アマプラ
企画:園田郁毅 脚本:永原秀一 撮影:高村倉太郎 照明:熊谷秀夫 美術:坂口武玄 音楽:鏑木創 監督:澤田幸弘

感想

■鑑賞順が逆になってしまったが、本作が澤田幸弘の監督デビュー作で、『反逆のメロディー』は二作目なのだ。それにしても全く危なげのない新人監督だ。

■川崎の地元やくざ郷田組の若者たちが関東連合会の鉄砲玉を殺したことから逆にその弱みに乗じられて組を傘下に入れられてしまう。頼みの郷田組長は弱腰で、関東連合会の椿(青木義朗)は港湾利権を独占するために血の生贄を求めてくる。椿の残酷な司令により、若頭の花井(郷鍈治)は元組長のご隠居殺害を若い衆に命じるが。。。

■あれあれ、主演の渡哲也はどこに出てくるの?そうです、実はこの映画、渡は主演ではなく、実質的には客演に過ぎないのだ。そもそも若い鉄砲玉だけの脚本があって、それを無理やり渡哲也主演作に書き直したのか、もともと渡哲也が出る予定はない地味な企画だったものが、格上げになって渡哲也がブッキングされたのか経緯は不明。いわゆるあれですよ、大河原孝夫の『ゴジラVSモスラ』が実質モスラ主演の映画で、ゴジラは通りすがりの暴れん坊に過ぎなかったのと構造が似てますね。(いやホントに)

■郷田組の若頭が郷鍈治で、その配下の若い衆を藤竜也、岡崎二朗、沖雅也(!)、藤健次らが演じる。川崎の港湾荷役利権を独占するための口実に、仕組んだ出入りで若者を死なせて、その葬式で相手の組を強請って乗っ取るという手法が関東連合会のお決まりの策略で、そのために若頭たちは次々と無理難題をふっかけられる。特に保身に走る郷田組幹部と生贄にされる若い衆の間で板挟みになる郷鍈治の苦衷が本作の最大の見所。まさに、ストレスラインを突破した中間管理職がいつ切れて斬り込むか、あるいは精神崩壊するか、というサラリーマン残酷物語でもある。

■岡崎二朗は東北から集団就職で出てきてグレてしまった若者で、同様の境遇の娘と懇ろになるが、当然のように暗殺される。しかし、この娘の描き方の雑さがさすがに70年代風味で、日活映画ではちょっと前まではこうした境遇の若い勤労者を主演に据えて丁寧なドラマを描いていたのに、ここでは主役はアウトローの側に移り、身体を汚され青春を踏みにじられながらもアウトローに惹かれてゆく勤労者の娘の姿が点描される。60年代後半はこうした転換が全世界の映画界で起こっていたわけだが、実際その急展開ぶりにはしみじみするなあ、というか改めて驚く。

■藤健次という歌手が演じるのが在日の若者で、母親を初井言榮がカタコトの日本語で演じるから分かるようになっている。この若者を暗殺するのが関東連合会の刺客・曽根晴美で、ホントに怖いですよ。顔が。顔で人をショック死させる男

関東連合会の冷血な幹部をいつものようにキビキビと的確に演じるのが青木義朗で、ほんとに惚れ惚れするほどの鬼畜。郷田組を飲み込んで、港湾利権を独占するためのきっかけとして隠居や若い者たちの血を流すことを欲する悪魔。対する郷田組の組長の情けなさも出色で、葬儀に乗り込んで話をつけてくると一人で乗り込んだのはカッコいいけど、青木義朗の罠にハマり、逆に組を乗っ取られてしまう体たらくが序盤の見どころ。その後は保身のために組の若い衆を切り捨てて見殺しにすることを厭わない。

■これに憤激するのが郷鍈治という構図で、だれしも郷鍈治に肩入れしたくなる作劇なので、本作の実質的な主役なのだ。関東連合会が米国で、郷田組が日本という構図裏目読み?)も容易に透けて見えますね。というか、明らかにそういう見立てですよね。

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