聖衣 ★★★☆

The Robe
1953 スコープサイズ 124分
DVD

■これまた廉価版DVDで観たので画質は最悪、色も抜け気味でボケボケ、音声も随所で途切れるという商品とはいいがたいレベルの画質、音質。ところが映画としてはかなり面白く、興味深い。ハリウッド初のシネマスコープ映画として映画技術史的には有名だが、お話自体は話題に上ることの少ない本作、いやいやなかなかの曲者映画なのだ。

■何しろ、『怪談イエスの呪い』と言っても過言ではない一種の怪談映画で、イエス磔刑を行ったローマの護民官が良心の呵責(?)から気が変になり、イエスの聖衣の呪いと吹き込まれて聖衣を焼き払うために探索するうち、ミイラ取りがミイラ、すっかり信心に目ざめてしまうというお話。さらに最後には護民官の恋人まで改宗してしまうというキリスト教布教映画であるが、抹香臭さというよりも、イエスの呪いの恐怖を描いたように見えてしまうところが非常にユニーク。それを信仰心と呼べば宗教映画だが、呪いあるいはたたりと呼べば怪談映画である。

■低画質DVDで観てもレオン・シャムロイの撮影は秀逸で、シネスコ技術を完全に使いこなしているし、ベタ明かりではない陰影を狙っているあたりも凄い。『サムソンとデリラ』などは、美術セットもいかにも室内セット丸出しだったが、本作の美術の質感、スケール感は完全に60年代の70ミリ3時間映画のスケール感を先取りしている。というか、本作がプロトタイプとなったのだ。ただ、リマスター版で観ると、却って陰影が飛んでしまっている可能性がある。上の画像は正規版のDVDなので、画質はピカピカのはずだが、そこは要注意だ。

■活劇ではなくリチャード・バートンジーン・シモンズのメロドラマとしてよく出来ており、裁判シーンのあとのラストには素朴にビックリした。ただ、護民官リチャード・バートンと奴隷ヴィクター・マチュアの男同士の心の交流というか、あからさまにホモセクシャルな関係性にもっと踏み込めば深いのに、そこは押しが足りない。

■本作もなぜか国内ではブルーレイが出ていない。DVDも吹き替えが収録されておらず、あまり売る気が無いようだが、面白い映画なのに勿体無い。


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