サムソンとデリラ ★★★★

Samson and Delilah
1949 スタンダードサイズ 128分
DVD

■クライマックスの神殿崩壊のスペクタクル特撮が有名な本作だが、それだけではない面白さ。確かにクライマックスの大特撮は今観ても思わず唸る迫力があるのだが、意外にもカット数は少なく、あっという間に終わってしまう。ミニチュアの精度や質感についても後の東宝特撮のほうが見ごたえがある。しかし、セシル・B・デミルの演出のケレン味が見事で、その呼吸で唸らされる。神殿の支柱が動き始めるあたりの、観衆の歓声がかき消え、石がこすれあう不気味な音だけがせりあがる音の演出など、簡潔のきわみだが、効果絶大で見事。
■しかし、もっと唸ったのは、サムソンとデリラの腐れ縁の大メロドラマの濃厚さ。単に怪力だけではなく、信心深くユダヤの指導者とも目されたサムソンが運命の女デリラと出遭ったばかりに神の恩寵たる怪力を失い、視力まで奪われて異教徒の神殿もろとも崩れ落ちるに到る悪縁の物語にこの映画の眼目はあり、その語り口のうまさはさすがの老巨匠セシル・B・デミル
■一方、このドラマの核心である悪女デリラの女心の浅はかさと複雑さの心理描写に大きな力点が置かれ、へディ・ラマーが全く見事に演じる。正確には、演技力の問題というよりもビジュアルデザインと演技指導の賜物だろう。妖艶という言葉はこの映画のへディ・ラマーのためにあるといっても過言ではない。サムソンに対する屈折した愛着と腐れ縁から彼に復讐しようとするサディストとしての側面に、それでも彼を傷つけたくないという女心の振幅の激しさ、そこへ嫉妬心が絡まって、女心の見本市といった人物造形に圧倒される。
■なにしろ40年代の映画なので、大スケールといっても基本はステージ撮影で、60年代の3時間映画のような雄大なロケ撮影の爽快さはない。今回は廉価版のDVDなので、テクニカラーの煌びやかさは味わえないが、リマスター版のブルーレイで観ると、へディ・ラマーの妖艶さはさらに冴えるだろうなあ。
東宝特撮でも壮大なスペクタクルにメロドラマを絡めたがるのは、こうした先行作品の影響が大だろう。しかも、女性映画が得意な本多猪四郎を起用するのも、メロドラマとして成立させたいという田中友幸の強い意志ではないだろうか。『ガス人間第一号』とか『フランケンシュタイン対地底怪獣』などはこの映画の影響を強く受けていると思う。