黒部の太陽 ★★☆

黒部の太陽
2009 スタンダードサイズ ?分
関西テレビ録画
原作■木本正次 脚本■大森寿美男
特撮監督■尾上克郎 撮影■中根伸治 照明■鈴木静
美術■三池敏夫 操演■関山和昭
音楽■岩代太郎
VFXプロデューサー■大屋哲男 VFXスーパーバイザー■佐藤敦紀
演出■河毛俊作

■フジテレビ開局50周年記念ドラマで、前後編で4時間以上ある大長編だが、ドラマ的にはコクの無いオールスター顔見世ドラマだ。スターといっても、専らフジテレビに貢献のあったタレントを中心に、お馴染みのメンバーが並んでいるというもので、本格的な骨太ドラマを志向したかどうかは、疑問がある。脚本に大森寿美男を起用した点は意欲が感じられるが、結果的には・・・

■前半はお馴染みの大破砕帯にぶち当たり、大出水が発生するスペクタクルまで、後半は破砕帯対策の思案とトンネル貫通までを男と女のドラマを織り交ぜながら描くが、どのエピソードも覇気が無く、主演の香取慎吾がトンネル掘りの班長を演じて、所々に無骨な味を出すが、感情が激してくると「西遊記」になってしまうのは、演出家の指導不足だろう。映画では三船敏郎が演じた関電の滝山役を小林薫が演じるが、これはミスキャストではないか。工事課長のユースケ・サンタマリアも、素材の良さが生かされた配役ではない。深田恭子勝地涼カップルで出てくると、「未来講師めぐる」の再現にしか見えないのも困りものだよ。黒部ダムの建設は太平洋戦争の負け戦の雪辱戦だという捉え方は悪くないのだが、訳アリの飯場女が深田恭子では、説得力は皆無だ。

■近年、特撮研究所がすっかりフジテレビ御用達の特撮スタッフとなっているようだが、ここでも大出水や盤膨れや崩落、発破といったスペクタクルの見せ場を、地味なミニチュアワークを中心として構成している。本編はビデオ撮影だが、ミニチュアシーンはフォルム撮影だろう。もちろんそれ以外にも情景シーンでデジタルマット画合成が多用されているようだ。ミニチュア表現としては、日本特撮の伝統芸の世界だからそつが無いが、自動車やトロッコの背景を合成した場面は、デジタル合成だが、いかにもスクリーンプロセス風の不自然なマッチングになっているのは、演出上の狙いだろうか。単に失敗しているのだろうか。破砕帯の出水シーンも、濁流から逃げる主人公たちの合成カットのレイアウトが、近年の手持ちカメラ風のマッチムーブではなく、固定カメラで往年の特撮映画そのままの構図になっているのも、擬古典的な演出だろうか。

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