■山田太一が地に足の着いた大人の恋愛、しかも始めから成就しようのない苦い恋愛を描くスペシャル・ドラマ。渡辺謙、夏川結衣、岸谷五朗、田中美佐子、AKIRA、川島海荷、YOU、井川比佐志、柳沢慎吾といったにぎやかな配役だが、ほぼノーメイクで蟹股で歩くオバサンを演じる田中美佐子やラストに顔を出す柳沢慎吾がいい味を醸す。
■町工場のものづくり技術とコンピュータ制御によるものづくりの対立といった現代的な(?)モチーフで引き込んで、焼け棒杭に火がついた感じの渡辺謙と夏川結衣の20年ぶりの情愛に観客を誘い込むのだが、メロドラマとしては弱く、その原因は岸谷五朗が妙に物分りが良すぎることにある。
■20年前に夏川を渡辺から奪い取ったことや、ものづくりの技術に対するライバル心といったものが、岸谷五朗をもっと煩悶させなければ、メロドラマの心理的コクが生まれない。彼の嫉妬心が、渡辺のものづくりの技術に対する評価と尊敬によって乗り越えられる、といったドラマ的な核が、観ている方としては是非ほしいところだが、あまりに定石なので避けたのかもしれない。
■でも、夏川結衣の気持ちというか、夏川と岸谷の夫婦の気持ちが、いまひとつしっくり来ないまま終わったのだが。