『海の底』

海の底 (角川文庫)

海の底 (角川文庫)

■読む前は舐めていたのだが、実はなかなか硬派なシミュレーション小説で、秀逸な怪獣小説でもある。特に早期の自衛隊の出動を実現するためにマスコミの前であえて無様な壊走(こんな言葉もこの小説で初めて知った)を演じてみせる県警機動隊のエピソードは、実に男泣きの作劇で、他の小説や映画でもみたことの無い着想には感心した。
■キャラクターの設定にはいかにもライトノベル的な、アニメ的な部分が感じられるが、小説としては十二分に読ませる。自衛官の夏木と冬原の関係とか、いかにも腐女子が喜びそうな設定だが、良質な娯楽小説としての完成度は高い。心理描写などの小説的表現も、いささか女子(女流ではなく)文学っぽいのだが、軍事小説としては福井晴敏の「亡国のイージス」などより、ずっと大人で、深い。

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