百舌と女 ★★★

百舌と女
NHKBS2 昭和演劇大全集
昭和31年 東宝歌舞伎公演 東京宝塚劇場
作・演出■菊田一夫
出演■長谷川一夫、南悠子、越路吹雪草笛光子、小川虎之助、山田巳之助、岩井半四郎中村扇雀、淺尾奥山、谷晃

東宝歌舞伎とは何ぞやというところから、東宝演劇部に所属した渡辺保が説明してくれるのがありがたい。われわれのような筋の悪いファンは、東宝といえば特撮ものや黒沢明、せいぜい成瀬巳喜男の映画を中心に据えて東宝という会社を眺めてしまうのだが、東宝の演劇における一時期の隆盛も見込まないと、東宝の全体像が見えてこない。
■小川虎之助や山田巳之助といった、東宝映画(しかも50年代前後の)の脇役たちが、本来歌舞伎系の舞台俳優であったというのも新発見。しかも、小川虎之助など重要な脇役で、柔らかな物腰の大阪弁が絶品。
■物語は、没落寸前の大阪の老舗商家を救うために、愛する男がありながら大店へ嫁ぐことを決心する南悠子が中心で、そこに店の元共同経営者の息子兄弟が絡むという、単純な設定のわりに、凝った物語。長谷川一夫岩井半四郎が兄弟で、長谷川に南悠子の妹の現代的な草笛光子が想いを寄せるが、百舌には百舌の幸せがあると、分相応の下女の越路吹雪と結婚を約することになる。越路吹雪はコミカルな役柄だが、地力の大きさで、関東出身のはずなのに浪華女を見事に演じる。客席の盛んな歓声がなによりも、その魅力を物語っているだろう。
長谷川一夫越路吹雪の川舟で結婚を約束する場面なども、浪華情緒がたっぷりと詰った名場面で、スクリーンプロセスで実景が背景に流れる趣向は、東宝演劇の定石だったらしい。派手な炎上シーンなどが必要になると円谷英二が駆り出されていたわけで、はるかに時代を下って川北紘一なども舞台背景用の洪水などの特殊映像を手掛けていたはずだ。

参考

昭和演劇大全集

昭和演劇大全集

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