ミュージカル 李香蘭 ★★★

劇団四季 ミュージカル 李香蘭 [DVD]

劇団四季 ミュージカル 李香蘭 [DVD]

四季劇場(秋) 2008
企画・構成・演出■浅利慶太 作曲■三木たかし
配役■野村玲子李香蘭)、濱田めぐみ川島芳子)、芝清道(杉本)、五東由衣(李愛蓮)

川島芳子が裁判から抜け出して、狂言回しを務めることからも「エビータ」のスタイルを下敷きにしたことが明らかだが、その後、李香蘭の上海軍事法廷から時間を遡って、関東軍の画策、満州事変、日中戦争を経て太平洋戦争が勃発するまでを描くのが第一幕。第二幕は、月月火水木金金から日劇公演を経て敗戦、上海軍事法廷で日本人であることが証明され、辛くも奸漢罪を逃れるまでを描く。
■最後は中国人の裁判長が、報復ではなく、徳をもって報いんと謳いあげ、カーテンコールでは日本と中国は兄弟・・・黒い髪、黒い瞳日中友好を訴えかけるという、小学生にも間違いなく分かりやすい作劇で、劇団四季がオリジナルミュージカルとして昭和三部作を上演する意義は十分に理解できる。
李香蘭の半生については、大幅に省略されており、上戸彩のテレビドラマ「李香蘭」のほうが自伝に忠実なので、このミュージカルで李香蘭に興味を持った人は、DVDが発売されているので、そちらを観ることをお奨めする。今にして思えば、かなり頑張っていたドラマだ。
■意外にも李香蘭のエピソード自体は必要最小限で、太平洋戦争に至る昭和史の事件を並べて昭和史の勉強をしてもらうという演出上のスタンスが色濃く出ている。しかし、その部分が案外面白くショーアップされており、見ごたえがあるし、楽しいのだ。実は、このミュージカルの弱点はオリジナル楽曲の弱さにあり、実もふたも無いことを言ってしまえば、帰り道に口ずさんで帰ることができる主題歌を生み出していないことがその証拠なのだが、その反面、戦前、戦中の楽曲の持つ音楽的な普遍性に気づかせてくれるという点で、貴重な体験をさせてくれる。
■実に、四季メンバーの魅惑的なテノールで唄われる関東軍の主張は、歴史的には乱暴このうえない論理なのだが、劇的には非常に魅力的だ。最近の下手な役者が軍人を演じてもちっとも説得力を持たないが、四季メンバーの朗々と響き渡るいい声で唄い、語られると、その説得力は危険な輝きを帯びるのだ。劇中で唄われる中国の哀調を帯びた歌「松花江上」よりも、「兵隊さんよありがとう」とか景気のいい生演奏と生歌で演じられる「月月火水木金金」の場面の清々しさのほうが激しく魅力的であり、こうした倒錯はこの手のドラマや映画にありがちなことだが、やはり、思想と音楽性は切り離して考える必要があるということなのだろう。
浅利慶太の意欲作ということで、劇団四季のベテランメンバーが総動員という布陣だが、野村玲子は「鹿鳴館」を観たあとでは役不足という感じだし、「エビータ」で異彩を放った芝清道が真面目一方の役で、こちらも役不足という気がする。
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