ニュールンベルグ裁判 ★★★★☆

JUDGMENT AT NUREMBERG
1961 ヴィスタサイズ 186分
BS2録画

■なぜかDVDも発売されていないのだが、堂々たる傑作。ドキュメンタリータッチの堅苦しい再現ドラマというイメージが先行していたのだが、実際は全く異なり、法廷劇の面白みを詰め込んだ法廷映画の傑作でもある。扱われる素材も登場人物も史実から発想された架空のものであるようだ。

アメリカの片田舎から任命されて国際軍事裁判(といっても、お話を単純にするためアメリカしか登場しない)に参加した老判事(スペンサー・トレイシー)を中心として、断種法とホフマン事件(架空)を裁いてゆくことになる。ナチスドイツで司法大臣を務めた高名な法学者ヤニング(バート・ランカスター)の存在が裁判の核心となってゆき、クライマックスで沈黙を破った彼がナチスに協力するようになった当時の心境を語る。

■当時のドイツの危機を救うためにはナチスに一時的に協力するしかなかった、それはあくまで一時の方便として同調したつもりであったが、結局軌道修正をすることはできずその泥沼から抜けることができなくなっていた。というのがその趣旨だが、時代の逼塞感を一気に打開するため武断政治を選択するしかないと考えるのは、同時期の日本の事情とそのまま同じであって、リベラルな知識人ですらそう考えたために、状況を悪化させたという苦い経験を共有していることを教えてくれる。これは先日の「ミュージカル李香蘭」で知ったことだが、永井荷風ですら断腸亭日乗に「今日わが国政党政治の腐敗を一掃し、社会の気運を新にするものはけだし武断政治を措きて他道なし。今の世において武断専制の政治は永続すべきものにあらず。旧弊を一掃し人心覚醒せしむるには大に効果あるべし」と書き残しているのだ。

■そして、裁判が決着した後、ラストシーンで、実は強制収用所の存在は本当に知らなかったのだと釈明するヤニングに、最初のひとり(断種を容認した判断)について理性と良心を放棄したことがその後の何百万人の犠牲の発端だったのだと容赦なく切り捨てるスペンサー・トレイシーの厳しさは、われわれも銘記すべきものだろう。

アメリカ側の検事を演じるリチャード・ウィドマークも凄いが、ドイツ側の弁護人のマクシミリアン・シェルが神がかった名演を見せる。「シンドラーのリスト」よりも強烈な傑作だと思うが、デリケートな問題を扱いながら、実録ではなく、史実にインスパイアされたフィクションという微妙な立ち位置のせいで封殺されているのだろうか。

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