キングダム 見えざる敵 ★★★☆

THE KINGDOM
2007 スコープサイズ 110分
TOHOシネマズ二条(SC2)

 サウジアラビアの米国人居留地で大規模な自爆テロが発生、巻き添えで死亡したFBIエージェントの同僚たちは政府上層部の反対を押し切って現地に飛び、5日間に限定された捜査を開始するが、サウジ側の非協力体制のため手も足も出ない・・・

 冒頭にアメリカとサウジアラビアの骨がらみの歴史を簡潔にしかしリアルに説明し、一体何が始まるのかと思わせる。本作の骨格は明確にアクション映画であり、その骨法はすこぶるオーソドックスである。外的要因によって進展しない捜査への苛立ち、あることをキッカケにそれが急展開し、サウジ側の捜査官と信頼関係を築いてゆき、大詰めはテロの首謀者が潜むと思われる危険地帯での大銃撃戦に発展する。アクション映画としての完成度は確実に高い。”復讐の連鎖”というモチーフを扱った映画は少なくないが、その劇化において際立った手並みを見せる。

 しかし、本作の目玉はそうしたアクション映画の骨格に、昨今の対テロ戦争への批判的視点を巧く盛り込んでいるところにあり、冒頭の、実際のところ本筋にあまり直接的には関係ない歴史的説明も、物語の細部を解釈する上で役に立つように考えられている。例えば特に素晴らしいのは、クライマックスでジェニファー・ガーナーが少女に差し出す飴玉が捜査上重要なある物と交換されるシーンであろう。ある意味で似通った性質の物体の交換という行為を通じて、現在世界を恐怖させているテロと対テロ戦争の根源に宗教的な問題だけでなく経済行為が同じくらい大きな要因として横たわっていることを映像に象徴して見せているのだ。それは単に貧富の格差が摩擦を生むというレベルではなく、経済生活を基盤とする人類の文明にとって、経済活動と戦争がセットで組み込まれていることまで思い至らせる力を持っている。

 フジテレビの「HERO」なんて、志の低い、というかそもそも無い映画を観る時間とお金があるなら、勉強と思って本作の覚悟の決め方を観ておくべきだ。


参考

そしてピーター・バーグは『バトルシップ』を撮っちゃうのだ。
maricozy.hatenablog.jp
と思ったら、こんな傑作も軽々と撮ってしまう。
maricozy.hatenablog.jp

© 1998-2024 まり☆こうじ