LETTER FROM AN UNKNOWN WOMAN
1948 スコープサイズ 87
DVD
ドイツ人でフランスに亡命したマックス・オフュルスがハリウッドに招かれ、流麗な演出で20世紀初頭頃のウィーンとリンツを舞台に描き出す、ひとりの娘の純愛と、その残酷な結末。たった87分でひとりの少女が熱烈な片思いの末、女になり、嫁ぎ、息子を愛育するが、昔の片思いの音楽家が忘れられずに自滅してゆく姿を省略と効かせながらもゆったりとしたリズムで陰影豊かに描き出す傑作。移動やクレーンを駆使した息の長いキャメラワークは溝口健二を思わせる。
ウィリアム・ワイラーなどのメロドラマに比べると、映像表現に情感のヒダが豊かで、人間性そのものの解剖よりも、不思議な運命のいたずらを、映画ならではの技法を駆使して映像言語として語り尽くすことに注力しているようだ。特に本作では同じ構図や道具立ての繰り返しやヒロインの表情を鏡像で表現するといった方法で、ヒロインの境遇の変化を対比させて際立たせたり、演技だけでなく周囲の舞台装置を含めた画で心理描写を構成する。
それにしても、一夜の逢瀬とはいえ、華麗なヒロインのことを完全に失念していたステファンは、アルコール浸けの自堕落な生活のせいで脳をやられていたに違いない。メロドラマにおいて、決定的なすれ違いは考えてみれば、こうした実に他愛無い事象が原因となることが多いのだ。
ちなみに、廉価版DVDの画質は、以前に出ていたビデオ版の原版をそのまま使用しているらしく、あまり美麗なものではないが、映画の美しさは十分に堪能できる。