つぐない ★★★

ATONEMENT
2008 ヴィスタサイズ 123分
京都シネマ

映画「つぐない」オリジナル・サウンドトラック
■傑作と呼び声高い有名小説の映画化で、映画自身も評価が高いようなのだが、果たして本当にそうだろうか?物語自体は実にありふれたメロドラマで、そのコテコテぶりは時代錯誤な感さえするし、また監督ジョー・ライトの演出も、間違っても文芸映画というタッチではなく、相当押しの強い、メリハリの効いた、派手な演出である。その若々しさと騒々しさは、同じイギリスのケネス・ブラナーの映画を連想させるほどだ。実際、音楽の使い方や音響設計など、メリハリがきつ過ぎるので、ドラマに没頭できないほどだ。京都シネマの音響機器の特色かもしれないが、エッジがきつく、いわゆる聞き疲れする音なので、2時間が辛い辛い。
■第二次大戦の病院のシーンなども、特殊メイクとデジタルVFXを駆使して、これでもかとグロテスクな傷病兵を見せる。このシーンなど、戦場のおぞましさというよりも、完全にグロテスクな見世物として演出している。随所にホラー映画的な演出スタイルも駆使しており、このあたりは監督の趣味嗜好の世界のように感じるが、傑作文学の文芸映画化を期待して詰め掛けた観客に冷や汗をかかせる。
■少女の性的な好奇心と未熟さから生じた悲劇を描き出すのだが、例えばウィリアム・ワイラーの「この3人」といった子供の幼いエゴイズムを鋭い筆致で抉り出した傑作などと比べると、ドラマ的な単調さが際立ってしまう。テーマの収拾の仕方も、特に巧い工夫があるわけでもなく、ヴァネッサ・レッドグレーブがいい芝居を見せるものの感銘は薄い。
■特に戦場シーンで多用されるデジタルVFXは、おなじみロンドンのダブル・ネガティブの制作なので、精度が高い。VFXの使用は約200カットに及ぶというVFX大作である。あまり積極的な意味が感じられないダンケルクの浜辺の5分27秒の長回しの場面など、おそらく遠景をCGなどで制作して、3Dのマッチムーブをかけて合成したのだろうが、どこまでが実写でどこからが架空の映像なのか判別できない。この浜辺の長回しは技術的には凄いのだが、「トゥモロー・ワールド」の同様の場面と比べると、劇的な意味合いが空虚で、監督の資質に疑問を感じずにはいられない。

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