『東京家族』の橋爪功は生気満々、笠智衆と違ってまだまだ死にそうにないのだ

基本情報

東京家族 ★★★☆
2013 ヴィスタサイズ 146分 @APV
脚本■山田洋次平松恵美子 撮影■近森眞史 照明■渡邊孝一 美術■出川三男 音楽■久石譲 監督■山田洋次

感想

■本来は2年前に公開される予定だったが、東日本大震災の発生を受けてクランクインを延期、主演俳優も入れ替えて、脚本を改定して臨んだ山田洋次の意欲作。小津の『東京物語』を現代にリメイクするという企画だが、映像スタイルの模倣はあるものの、やっぱり山田洋次の我田引水という感じになる。でも、それが配役のアンサンブルもあって、かなり高いレベルで娯楽映画に結実している。小津的な深みとは無縁なところで、生気満々たる『東京物語』となっている。

■その主因は笠智衆のポジションの橋爪功。確かに橋爪功は年齢的には老齢だけど、あのがっちしたガタイを見なさいよ、まだまだ死の気配とか人生の秋といった風情とは無縁の生命力に満ちているじゃないか。そのなんというか生命力と明朗さがこの映画の主調となっていて、人生観の深みとか人生観照的な老境の思索とは縁遠い楽しい映画になっている。確かに、この座組を踏襲して『家族はつらいよ』がシリーズ化するわけだと感じる。ちっとも恬淡としていない橋爪功のエネルギッシュな老人の姿は、『東京物語』との大きな対比を形作る。そうなってくると吉行和子が68歳で突然死するという設定も、本来は見直すべきではなかったかという気もしてくる。そうした反省とやり残し感が『家族はつらいよ』を生んだのではないか。

■台詞のなかに唐突に「この時代」とか「この国」とか「災害ボランティア」とかが出てくるのが、東日本大震災を受けた脚本の改定によるものだろうが、あまりにも唐突な印象だし、とって付けたようにしか感じられない。そのあたりが本作の評価を微妙なものにするだろうが、まあ許容範囲内ではないか。

■とにかく配役の妙と古典的な楷書で書いたような映画ならではの演技については、見ているだけでしみじみと楽しい。中嶋朋子が見た目にふさわしいシャープな口跡と演技で惚れ惚れする上手さで、いいもん観たわという満足感をもたらしてくれるし、林家正蔵がこれまた異様に上手いので舌を巻く。配役の妙で天然の持ち味でもあるが、脇役俳優としては満点という変な味を出しまくる。林家正蔵だけ日本映画黄金期の名脇役って感じで、逆に違和感を感じるほどだ。

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