LIMIT of LOVE 海猿 ★★★☆

LIMIT of LOVE 海猿
2006 スコープサイズ 117分
TOHOシネマズ二条(SC6) 
原作■佐藤秀峰小森陽一 脚本■福田 靖
撮影■佐光朗、さのてつろう、村埜茂樹 照明■水野研一
美術■清水 剛 音楽■佐藤直紀
VFXスーパーバイザー■石井教雄
監督■羽住英一郎

 鹿児島で訓練中の海上保安庁所属の仙崎(伊藤英明)に、鹿児島湾内でフェリーが座礁、沈没の恐れありとの連絡が入る。救出に向かったフェリーには、気まずく別れた婚約者(加藤あい)の姿が。彼女と数百人の乗客を避難させるが、水没と火災のため、船内に仙崎を含む4人が取り残される。さらに、無線の断絶により絶望視され、救助活動も中止される。果たして彼らは沈没しつつある船内から脱出できるのか・・・

 コミック「海猿」の映画化第2弾、というよりも、「逆境ナイン」シリーズの第2弾と呼ぶのが相応しい、熱血根性映画。平成の現代に男の根性のあり方をバカバカしいほどに熱く説く、羽住英一郎という監督はとことん昭和40年代の魂を宿した男だ。「交渉人真下正義」の成功に味を占めたフジテレビは、「海猿」もパニック映画路線に粉飾しようとするが、幼き日、羽住英一郎少年の心に深く刷り込まれたスポコンの炎は、パニック映画を男のド根性が試される試練の場と規定し、命を賭けた男の友情を熱く謳いあげる。伊藤英明がいつ「これが逆境だ〜!!」と叫びだすかとヒヤヒヤする。

 もちろん、パニック映画としてもスケール感、VFXともに日本映画ばなれしたもので、制作プロダクションROBOTの大作映画作りのノウハウがよく発揮されている。ロケ撮影でのエキストラを入れたスペクタクルな映像作りの厚みは撮影所システムの崩壊後、独立プロで再構築されたものだろう。オムニバス・ジャパンによるVFXは、巨大なフェリーが傾いて鹿児島湾に沈んでいく様を、かなりのリアリティで描き出す。ロケによる保安庁の艦船の奥に、CGによる傾いたフェリーを合成(もちろん、マッチムーブ)したカットなど、質感に違和感が無く、フェリーの実写といっても通用するほどだ。ただ、煙の扱いにまだ若干の違和感があり、これは素材撮影して合成したほうがリアルかもしれない。

 伊藤英明佐藤隆太のバディの信頼関係に比べると、伊藤英明加藤あいの痴話など、中学生レベルの、まさに噴飯モノのお粗末な作劇で、羽住英一郎の演出にも全く誠意が感じられない。実際、この映画の加藤あいを見ていると、殺意すら覚える。羽住英一郎の真意は、伊藤英明の、頭は弱いが力持ちで、ど根性で窮地を生き延びる、海の男のど性骨と、生と死のギリギリの場所でその精神を共有する海猿たちの信頼関係こそが最上の美であると謳うことにあり、伊藤と加藤のくだらないメロドラマはあくまで粉飾に過ぎないのだろう。ついでに言えば、事件に遭遇する女子アナのエピソードも全くの蛇足で、何の意味も成していない。

 羽住英一郎は、そんな気の無い陳腐なメロドラマ的なエピソードの粉飾などにはわき目を振らず、ぜひとも「巨人の星」の実写映画化に邁進すべきだ。

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