ホテル・ルワンダ ★★★★

HOTEL RWANDA
2004 スコープサイズ 122分
滋賀会館シネマホール


 1994年、ツフとツチの民族対立が激化するルワンダで、大統領の暗殺事件を契機として、フツの民兵による大量虐殺が開始される。高級ホテルの支配人(ドン・チードル)は、人脈と賄賂と機転を駆使して虐殺を逃れ家族や隣人をホテルに匿うことに成功する。平和維持軍の司令官(ニック・ノルティ)は西洋列国の軍事介入による秩序回復に期待するが、やってきた軍隊の任務は、白人たちを故国に連れ戻すことだけだった。孤立無援となった主人公たちの過酷なサバイバルが始まる・・・

 ルワンダ大虐殺の実話に基づく、社会派映画の傑作。全世界の人々に広く事件の顛末を知って欲しいという趣旨から、虐殺の直接描写は避けられており、扇情的な残虐描写は含まれていない。ニック・ノルティホアキン・フェニックスジャン・レノといった有名スターの配役もそのことを強調している。だが、それでもこの映画で描かれる極限状態は並の恐怖映画以上の恐怖を味わわせ、人間の人間に対する脅威の実相が否応なしに暴き出される。

 大虐殺の姿をホテルの支配人の視点から描き出す着想が成功の鍵となっているが、それ以上にコテコテの作劇の巧さが映画としての勝因となっている。虐殺の恐怖と心安らぐ場面を交互に提示しながら危機感を煽っていく構成の巧さと、演技陣の充実も特筆に価する。

 頼りになりそうな風貌ながら、法規に束縛されて実力行使できないことに切歯扼腕するニック・ノルティの配役と演技は見事だし、何もできないことを恥じながら帰国のバスに乗り込むホアキン・フェニックスも見事な作劇の例だ。実際、白人たちの帰国の場面は全編中の白眉といえる複雑な感動を作り上げて見事な演出である。アフリカとそれ以外の世界の断絶を端的に劇化した名場面である。

 人間の脅威から逃れるため、賄賂、恫喝、懐柔といった奸智を積極的に駆使して自分や家族や自分を頼る者たちを守り抜こうと奮戦する主人公の強靭な生き抜こうとする意志を見るにつけ、同じ恐怖のなかに自分が投げ込まれたとき、いったい何が出来るだろうかと考えると憂鬱になってしまうのだ。

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