『幕が上がる』は観るのもの全てを演劇沼に引きずり込む

基本情報

幕が上がる ★★★★
2015 ヴィスタサイズ 119分 @APV
原作■平田オリザ、脚本■喜安浩平、撮影■佐光朗、照明■加瀬弘行
美術■禪洲幸久、音楽■菅野祐悟VFXスーパーバイザー■西尾健太郎
監督■本広克行

感想

■なんとなく高評価を聞いていたような気がしていたのだが、監督が本広克行だし、ももいろクローバーZのアイドル映画だし、見なくていい映画なのかなと早合点してました。間違いでした。傑作でした。

■高校演劇の弱小校で何かの壁にぶち当たって悶々とするさおりの前に、元学生演劇の女王と言われた新任所教師が現れる。彼女との出会いで部長としての自覚と演劇に対する才能を引き出されたさおりは弱小演劇部を全国大会に導くことを決意する...という、高校演劇をテーマとした演劇論の映画であり、教育論の映画であり、女優誕生を描いた感動的なアイドル映画である。

■現代演劇の巨匠平田オリザの書いた小説が原作なので、お話がしっかりしているのは当然としても、脚本もよくできている。演劇とはなにかというエッセンスも自然と腑に落ちるようにできているし、演劇にハマる心理もなんとなく共感できる。黒木華の演じる女優を諦めた新任教師が壁にぶち当たった、悶々とする女子高生を見事に導いて、大きく成長させるという、これが教育なるものの原初的な姿でしょ、というテーマもすっきりと、というか感動的に描き出す。師弟なるものは運命的な出会いであり、運命的な出会いがあるかないかによって、当然のこと人生は大きく変わる。そういうことが、自然と腑に落ちて実感できる。

■とにかく主演の百田夏菜子のポテンシャルが凄くて、これほど演技のできるアイドルだとは知らなかった。これだけの演技を引き出したのは、何故か踊る大走査線終了後に演劇に執心の本広克行監督の面目躍如といったところだろう。まあ、平田オリザが原作だけでなく演技指導までタッチしているので、当然ということかもしれないが、よく演じ切ったものだ。百田夏菜子の女優誕生のドキュメンタリーであり、王道のアイドル映画である。

■演劇人として成長していく教え子の姿に、いったんは思い切ったはずの演劇に対する情熱を取り戻す所教師役が、もうこれ以上ないというはまり役の黒木華で、彼女自身の女優としての生い立ちにも重なる部分があるだけに説得力は抜群。しかも、本作では演劇部のみんなが憧れる、演劇と人生の先輩としての貫禄と大人の色気を的確に演じて、見事な好演。しかも、実に美人に撮れている。映画やドラマでは地味な昔風の庶民の女を割り振られるけど、実際の素顔はこんなに美人ですよという、黒木華のアイドル映画でもある。ほんとにこの映画の配役は大成功していて、映画の成功の大半は配役の成功によるだろう。

■といいながら、大人たちの脇役については謎だらけで、天龍源一郎とか松崎しげるとか鶴瓶とか、いったいどういう基準で登場するのか理解できない。しかも、結構頻繁に登場する絵にかいたような合成カットが妙に平板なのは、大林宜彦へのオマージュ?それでも、映画は成立してしまうから不思議だ。

■製作はフジテレビジョン東映、ROBOTほか、制作はROBOT。

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