ナイロビの蜂 ★★★★

The Constant Gardener
2006 ヴィスタサイズ 128分
MOVIX京都(SC7)


 ナイロビ在住の英国書記官(レイフ・ファインズ)の妻(レイチェル・ワイズ)が何者かに惨殺される。過激な民間活動家である妻が製薬企業に関わる疑惑を追っていたことを知った書記官は、本国からの訴追を掻い潜りながら、妻の足跡を追う内、事件の真相に肉薄してゆく・・・

 アフリカの異郷の大地を舞台としたメロドラマといったイメージで宣伝されているが、実際の映画は極めてリアルな肉感を持ったシリアスなサスペンスである。メロドラマ的な味付けも抜け目は無く、ラストの哀切な幕切れは見事といっていいだろう。「ホテル・ルワンダ」に匹敵するアフリカもの(?)の傑作である。

 原作のジョン・ル・カレといえばスパイ小説の大家というイメージだが、本作にもそうした作劇術が生かされ、夫が妻の死に至る足跡を追うサスペンスが進展するうちに、死後にやっと妻を理解するという夫の後悔の痛切さが胸を打つ。非常識なほどに攻撃的な活動家レイチェル・ワイズがアカデミー助演女優賞を獲得したわけだが、むしろ後に残されたレイフ・ファインズの抑えた演技が絶妙。雑草の無い世界を夢見る男と妻に言われる、おっとりした英国紳士風の主人公が妻の活動家としての魂を自身の中に発見してゆく後半の変貌ぶりが痛ましくも力強い。

 しかし、なんといっても圧倒的なのは、 アフリカのスラムの姿を耐え難いような色彩と視点でハイパーリアルに描き出したフェルナンド・メイレレスの演出とセザール・シャローンの撮影の功績だろう。アフリカの現実の一角をリアリスティックにドキュメンタルに描きながら、一方で硬派な社会派ドラマであり、痛恨のメロドラマであるという多重構造の離れ業を完成させた才能は恐るべきものだ。

 被写体にべったりと密着した画角でキャメラは動き回り、ピントも手前にあったり、奥にあったりという独特の画面構成と、毒々しく画面から臭気漂うような色彩設計、イギリス、ドイツと点々とする舞台につれて展開する異なった色彩と光線の世界がアフリカと先進国の対比を視覚的に実感させる。

 アフリカをなんとかしなければ”先進国”も枕を高くして眠れない、という気にさせてしまう力を持ったジャーナリスティックな作品でもある。

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