激動の昭和史 軍閥 ★★★

激動の昭和史 軍閥
1970 スコープサイズ
レンタルV

脚本■笠原良三
撮影■山田一夫 照明■石井長四郎
美術■阿久根巖 音楽■真鍋理一郎
光学撮影■三瓶一信
監督■堀川弘通


 2・26事件から東條内閣の解散までの期間における軍閥の動きを、とりわけ東條英機に焦点をあわせて描き出した一篇。

 首相指名された当初は天皇の意向を受けて和平路線を探りつつ動くが、戦局の悪化に伴って狂信的に変貌してゆく姿を小林桂樹が熱演して、これは三船敏郎山本五十六に匹敵するキャスティングと思われる。

 後半の見所は軍部の批判記事を書いた毎日新聞記者(加山雄三)が東條の逆鱗に触れて徴兵され、同期の200名を超える予備役たちが巻き添えで前線に送られてしまうエピソードのあたりで、憲兵を自由に使役していたといわれる東條の恐怖政治の一端を浮かび上がらせて確かに怖い。

 さらにその加山に特攻隊員の黒沢年男がマスコミの無責任な態度を強烈に糾弾し、日本が負けるために自分は死にに行くのだと語るストレートな描写が連なるのだが、あまりにストレートすぎて受けの芝居も成立しない加山雄三の無様さがかえってリアルにマスコミの不甲斐なさを表している。

 内閣崩壊後、天皇の前でなおも本土決戦を主張するファナティックな東條の主張に原爆投下の実写が提示されて映画は唐突とも思える終わり方をするのだが、これは「激動の昭和史 東京裁判」に続くという意図だったのではないか。小林正樹が監督に予定されていたと聞く劇映画版「東京裁判」は、しかし日本映画の最も困難な時代であったこの時期には到底実現不可能なものであっただろう。

 実際、記録フィルムを大量に使用したこの映画は相当な低予算映画であり、サイパン陥落のシーンなどは後の「大日本帝国」にも及ばない小規模な撮影で、東宝の台所事情の苦しさを隠そうとしていない。

 軍閥の狂気、東條の狂気に焦点をあわせた恐怖映画といえるのかもしれない。だが、この東條の”狂気”と見える言動の裏に、隠された理性と意図と信念を読み取る作業こそ必要ではないかというのが笠原和夫の「大日本帝国」であったのだ。

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