感想(旧HPより転載)
九州で発見された心中死体に不審を抱いた刑事たちの追求で、東京で露見した汚職事件の証拠隠滅を図るための殺人疑惑が浮上するが・・・
松本清張の有名原作小説を東映東京が丁寧に映画化した快作。今なら堂々2時間くらいの映画になりそうな込み入った事件をたった80分程度にまとめ上げ、しかも主役は新人の南廣という大胆な企画だが、無駄無く引き締まった硬派な娯楽映画である。
脇を固める加藤嘉、志村喬、三島雅夫、山形勲、高峰三枝子という豪華配役は、確かに大作の風格だが、それぞれのエピソードが警察の捜査を中心として刈り込まれている。これを観れば、今の娯楽映画がどれほど贅肉を身に付けているかが良くわかるだろう。
山形勲と高峰三枝子の荒んだ夫婦関係を照明効果による影の演出で表現した場面はまさに楷書で書かれたような正確さだし、冒頭と照応するラストの二つの死体の対比も見事な構成というほかない。
それにしても山形勲のカッコ良さは絶品で、あの曲者三島雅夫すら手玉に取るという儲け役。おそらく山形勲の全出演映画の中でも、最も颯爽とした悪役ではないだろうか。
東映のレンタル用DVDだが、先日の「大日本帝国」のやる気の無いおざなりのオーサリングに比べると、おそらくネガからニュープリントしたポジを元に素直に作成された原版らしく、フィルム自体の褪色は明らかだが、その人工的な色彩が自然に時代を感じさせて、カラー映画がまだ端緒にあった頃の丁寧な映画作りの痕跡をうかがうことができる。このDVDなら買う価値があるだろう。