怪談蚊喰鳥

怪談蚊喰鳥
1961/CS
(2004/6/8 V)
原作/宇野信夫
構成/橋本 忍 脚本/国弘威雄
撮影/本多省三 照明/中岡源権
美術/西岡善信 音楽/倉嶋 暢
監督/森 一生

 寺の墓地裏に住む常盤津の師匠(中田康子)のもとへやってきた馴染みの按摩は、実は彼女に恋焦がれながら前日息を引き取っていた。そう語ったのは瓜二つの弟按摩の徳の市(船越英二)であった。その後師匠にしつこく付きまとう徳の市の蓄財を狙った師匠と情夫(小林勝彦)は徳の市を騙して有り金を巻き上げようとするが、企みがバレると徳の市を叩き出す。だが、徳の市はすぐに舞い戻って二人を翻弄し、増長してゆく。追い詰められた二人は遂に徳の市を毒入りの鯰鍋で殺害し、墓地の井戸に投げ込むが・・・

 宇野信夫の戯曲を原作とする一種の文芸怪談で、最後はあくどい人間の奸計がもたらした不思議な因縁で悪人たちが自滅してゆく様を「死んだ人間よりも生きている人間のほうが怖い」と締めくくる凝った構成なのだが、そうした原作の巧さよりも森一生の怪談演出の腕の冴えを賞賛したい小品。

 小品といっても寺の裏手の墓地というユニークな舞台設定をオープンセットに拵えた大映京都全盛期の余裕が垣間見える贅沢な美術が見もので、本多省三のモノクロ撮影の粋を凝らした陰影豊かな闇夜の設計や、墓地裏の夕暮れに流れ込む生暖かい湿った風を情感として知覚させるディテールの質感の作りこみが素晴らしい。特に前半の按摩の幽霊との遭遇を描く一連の夜の場面は、中岡源権の照明効果が名人芸と呼ぶに相応しい仕上がり。

 しかし、これらを自在に操っているのは間違いなく森一生の明確な演出意図であり、本作と「四谷怪談・お岩の亡霊」の2作で十分に怪談映画の巨匠として認知されるべきなのだが、いまだにそういう雰囲気が無いのが不思議でならない。第一、音楽担当の倉嶋暢は大映京都の音響効果技師であり、作曲家ではない。つまりメロディではなく、心理的な音響効果で押し通すという実験を行っているのであり、今更言うことではないが、森一生という監督は、決してルーチンワークの作家ではなく、極めて意欲的な演出意図と映像スタイルを堅持した映像作家なのだ。特に怪談映画においては他の追随を許さない完成度を示しており、中川信夫にだって決して引けをとってはいない。

 ここでは中田康子が所を得て年増の毒婦を的確に演じ、小林勝彦はお得意の優柔不断な小悪党をごく自然に演じてはまり役。そして大映が誇る性格俳優の船越英二が不気味な按摩役を熱演し、後年の「盲獣」の主役の充実ぶりには及ばないが、ここでもその特異な個性を発揮している。そろそろ船越英二映画祭というものが企画されてしかるべきだと思うが、そういう意味では不遇な役者といえるのかもしれない。船越英二にもっと光を!


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