基本情報
死霊の町
(HORROR HOTEL)
1960/VV
(2002/1/18 輸入V)
感想(旧HPから転載)
300年前魔女が焚刑に処せられたというニューイングランドのホワイトウッドという町に魔女狩りをテーマとした卒論の調査に向かった女子大生は、宿泊したホテルの地下で悪魔崇拝者たちに拉致され悪魔の生贄に供されてしまう。彼女にフィールドワークを奨めた担当教授(クリストファー・リー)こそ、一味の一員だったのだ。失踪した妹の身を案じた兄と恋人が町を訪れるが、今度は町に住む盲目の牧師の孫娘に悪魔崇拝者たちの白羽の矢が立つ。彼らは彼女を救出することができるのだろうか?
ハマープロと並んで60年代から70年代にかけて怪奇映画を量産したアミカスプロの第一作で、モノクロ、ビスタヴィジョンによる古典的怪奇映画の文句無しの傑作。マリオ・バーヴァの「血塗られた墓標」よりも、尚一層古典的な映像スタイルで貫かれた魔女映画の決定版といえるだろう。呪文のようでもあり、扇情的な効果音のようでもありながら、如何にも60年代風の明快なメロディを刻む劇伴も効果抜群で、傑作たるべきの全ての道具立てが揃っている。
イギリス公開時のオリジナルタイトルは「THE CITY OF THE DEAD」で、今回見ることのできたアメリカ公開版よりも2分長いノーカットオリジナル版のDVDが最近発売された。一応日本でも劇場公開されているのだが、今やすっかり忘れ去られた不遇の傑作である。
ホワイトウッドの町を包む霧はいかにもドライアイスの煙でございといった表情で足元に漂い続けるだけで、技術的にはあまり高度な表現ではない。同時期の大映京都なら同じくらい濃密な霧を画面上に満遍なく緊密に立ちこめさせて、絵画的な映像表現を実現することができるはずだ。
しかし、それでもモノクロのコントラストの高い画調と町中を覆う深い霧のおかげでこの映画は今も伝説として語り継がれる怪奇映画的抒情を身に纏うことができたわけで、いかにも低予算映画とはいえ、モノクロ映像の表現力の懐の深さには改めて驚嘆する。
ヒロインと思われた人物が物語の中盤で殺されてしまうという意表を突いた展開は「サイコ」と同じ年の制作だから、さっそくパクったのかもしれないが、この場合はせっかく美人女優を起用したのだから彼女を中心として最後まで恐怖を煽って欲しかったと思わないでもない。それほど映画の前半部分で霧深い閉鎖的な町に辿り着き、怪しげな住人たちが逍遥する異様な有り様を積み重ねたあたりの怪奇映画的抒情の豊かさには目を見張るものがあるのだ。
おまけに異貌の女優パトリシア・ジェッセルが300年前の魔女と現在のホテルの女主人を演じて、あのクリストファー・リーを助演に従える大活躍を見せる。この見事なキャスティングだけでなく、科白もない住人たちの配役も素晴らしく、怪奇映画らしいユニークな風貌の持ち主が集められており、モノクロ映像のなかに前衛的な彫刻物のように無言で世界を異形のものに変貌させようとする胡乱な視線を投げかける。
そして、誰しもがその成り行きに息をのむ奇蹟の大団円が怪奇映画を見慣れたすれっからしにも希有な感動を呼び覚ます。たったこの一作でジョン・L・モクシーという監督の名は怪奇映画史に名を残すことになったのだが、まさにカルトと呼ぶに相応しい偶然の巡り合わせが産み出した60年代ホラーの精華である。