感想(旧HPより転載)
隣の家に住む若夫婦の夫(地井武男)に恋心を抱く主人公の女子高生(栗田めぐみ)は男が見知らぬ女(宇都宮雅代)と一緒に歩くところを同級生の男の子がたまたま撮った写真によって妻(宮本信子)との仲に亀裂が入ったことに乗じて、旦那のポケットに女の経営するスナックのマッチを忍ばせる。彼女が男に恋心を告白し、唇をあわせたとき、家出していた妻が帰ってくる。だが、女たちに弄ばれた男の気持ちは既に妻の元にありはしないのだった。
十数年前に伊丹グリーン劇場の東宝青春映画特集オールナイト上映で一度観たきりだった想い出の名画(?)にレンタルビデオ屋で再会するとは思いもかけない僥倖というものだ。
円谷英二が特技監督を務めた「ゼロファイター・大空戦」で堂々たる監督デビューを果たした森谷司郎がその後何故か東宝青春映画の旗手として何本かの瑞々しい佳作を撮り上げ、ついには超低予算かつスタンダードサイズでこうした映画を手がける70年代の東宝映画の混迷(?)は痛々しい程だが、森谷司郎の資質的には、「日本沈没」や「八甲田山」よりも、この映画や「初めての旅」といった青春映画らしい心の痛みを抑制の利いた演出でそっと差し出す作品のほうがよほど映画としての魅力に溢れている。
しかも、この繊細な脚本を手がけるのが当時既に大ベテランだった井手俊郎というのが、東宝映画の恐ろしいところで、自身が共同脚本を手がけた成瀬巳喜男の「めし」から引用したかのような若い娘が夫婦の間に亀裂を生むという物語を入念な作劇で描き出す。
井上陽水のヒット曲やちあきなおみの「喝采」に乗せて栗田ひろみをアイドル映画風のスローモーションで飾り立てて見せたのは森谷司郎だが、井手俊郎は東宝映画のキャラクターらしく一見好青年風に渋く構えている地井武男の男のだらしなさを見逃さない。嘘から出た実で元会社の後輩である宇都宮雅代とも寝てしまうし、栗田ひろみから告白されればその場で押し倒してしまう彼の自堕落さを、焼き餅焼きだがむしろ呆気ない性格の宮本信子と対比させてカラーからモノクロに脱色させてゆくラストの演出が今観ると一層際だつ。
このほかにも、おそらく東宝映画で初めて描かれる自慰シーン(註:ホントかなあ)や、ヒロインの憧れる美少年(には見えないが)を誘惑するスナックの女が篠ヒロコだったりと見所(?)も満載で、この小品の後にあの「日本沈没」を撮ってしまったことで森谷司郎の作風が大きく様変わりしてしまったことを思うと、実に感慨深いものがある。
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