日活ノワールの珍品『ゆがんだ月』

基本情報

ゆがんだ月 ★★★
1959 スコープサイズ(モノクロ) 88分 @アマプラ
企画:高木雅行 原作:菊村到 脚本:山崎厳 撮影:姫田真佐久 照明:岩木保夫 美術:千葉一彦 音楽:鏑木創 監督:松尾昭典

感想

■兄貴殺しの真犯人を密告してしまっため神戸から東京に落ち延びたチンピラ(長門裕之)は、死んだ兄貴分の可憐な妹(芦川いづみ)に心を寄せるが、振り切ったはずの腐れ縁の女(南野洋子)が上京すると孤独に耐えられずよりを戻してしまう。。。

菊村到の原作モノなのでちゃんとしてるはずだが、映画はリアル志向の前半と荒唐無稽な後半に分離しているように感じる。前半の大規模な神戸ロケは姫田キャメラのモノクロ撮影が絶品で情景のディテールがうっとりするほど素晴らしい。それに比べると、後半の東京、横浜あたりは、少々定型的に感じる。

長門の演じるチンピラと、博多から駆け落ちして一緒になった南田の腐れ縁の顛末の、一筋縄ではイカない男女関係の機微が見どころで、そこはなかなか見どころがある。

■一方、東京に逃げた長門を影から付け狙う謎の男が神山繁で、これがフィクション度高めの殺し屋キャラクターで、後半が一気に荒唐無稽化する。特に難儀なのはクライマックスの一対一の決闘場面で、西部劇式の撃ち合いで、お約束どおりに神山が倒れるので、完全にギャグになっている。前半があれだけシリアスにリアル志向で見せていたのに。その後、薬漬けにされて香港に売り飛ばされそうな南田の救出劇も冴えず、終盤がかなりグダグダ。けっきょく、ふたりは元の鞘に収るだろうことを匂わせて終わるのだが、そこは具体的に見せないと、この場合、映画が締まらない。

■前半が充実しているのは、ヤクザの組長が三島雅夫で、若頭が梅野泰靖という配役の妙もあって、特にトルコ風呂の場面は簡潔な演出で傑作。好人物風ににやにや笑いながらも、急に真顔になると誰よりも眼が怖い組長を、三島が完璧に演じる。このあたりの演出と編集も絶品だし、怪しい強面の若頭を劇団民藝梅野泰靖がこれまた完璧にリアルに演じる。この人、ホントに上手い人で驚嘆するなあ。先日惜しくも亡くなったけど。この配役のアンサンブルの贅沢さが後半には欠けるのだ。ああ勿体ない。後半では下元勉@劇団民藝南田洋子を薬漬けにしようとするインテリ風のヤクザ者を演じて怖い怖いのが、見ものではあるが、前半が充実しすぎていたので、見劣りしてしまうのだ。

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