基本情報
フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ ★★★☆
1966 スコープサイズ 88分 @DVD
脚本:馬渕薫、本多猪四郎 撮影:小泉一 照明:高島利雄 美術:北猛夫 音楽:伊福部昭 特技監督:円谷英二 監督:本多猪四郎
感想
■東宝特撮の企画は『宇宙大怪獣ドゴラ』がコケた1964年くらいでSF映画の企画開発をほぼ断念していて、邦画界の斜陽とともに、企画意図の貧困化が急進する。安部公房の本格SF『第四間氷期』の映画化企画など、当然流れる。そのかわりに何がおこるかといえば、難しい科学的な新しいお話じゃなくて、みんなが知っているおなじみの古いお話を、怪獣映画の骨格にしようと戦略した。東宝本社の企画会議も通しやすいし、小さな観客も理解しやすいし、脚本構成もスッキリして破綻しにくいし、いいんじゃないの?
■なので、この時期、1966年『南海の大決闘』は『ロビンソン・クルーソー』だし、1966年『奇巌城の冒険』は『走れメロス』だし、1968年『怪獣総進撃』は『忠臣蔵』だし、1965年『フランケンシュタイン対地底怪獣』は『一本刀土俵入』だったりする。本作は、一気に神話のレベルに遡行して『海彦と山彦』だし『カインとアベル』だし『エデンの東』だろう。クローン生命による『ジキルとハイド』の趣もあるし、そもそも『フランケンシュタインの花嫁』の換骨奪胎でもある。美しい嫁(候補)に拒否られる悲劇ではなく、この世で唯一の同類が、罰当たりな人食い(悪魔)だったという、えげつない残酷劇。
■随分久しぶりに観たけど、さすがにDVDはナイトシーンが暗すぎる。なにしろ明るく楽しい東宝映画なので、映画館で観ればナイトシーンは潰しだし、ミニチュアセットもかなり精細に見えるはず。瀕死のガイラをかばってサンダが山奥に消える48分までが第二幕の中盤で、ここまでは文句なしの傑作。冒頭の恐怖シーンから、科学者たちの丁寧な追求があり、かなり早足でサクサク展開して自衛隊に主役を譲り、リアルな軍事作戦が展開するし、ガイラの演技が凄いし、メーサー車による冷徹で容赦ない狙い撃ちのまるで意思を持つような機械描写の冴え、ガイラと自衛隊の単純な切り返しで最大の効果を上げる見事な編集技術と、まことに陶然とする出来栄え。
■DVDのコメンタリーは当然水野久美だけど、聞き手が佐藤利明で、さすがに的確な指摘がいくつかあって、『フランケンシュタイン対地底怪獣』について駒形茂兵衛とお蔦の名を出すと、水野久美が『一本刀土俵入ですね』と返す部分は、溜飲が下がった。むかしから同作は『一本刀土俵入り』を下敷きにして構成しているに違いないと指摘していたのだけどあまりそこに触れる人がないので、思い過ごしかなと思っていたけど、やっぱりみんなそう思って納得していたのだね。ああ、スッキリ。木村武(馬渕薫、馬淵薫)の発案や意向というよりも、東宝の方針というか指示だと思うけどね。
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■ちなみに本多監督は水野久美にはほとんど演技指導がなかったそうで、それであれだけ的確な演技ができるのだから、すごい女優だね。たぶん、水野くんは言わなくても自分で考えられる人、という認識があって、あえて口出しはしなかったのだろう。それで、あの妖艶さだから、女盛り恐るべし。しかも、特撮パートのルックが相当地味になるので、水野久美はシーンごとにハイファッションを着こなして、七変化状態。化粧も妙に濃いし、完全に輸出仕様だね。
■ステージ撮影のセットは豪勢で、奥の部屋まで作り込んで俳優が演技しているし、海辺のロケ撮影がなんといっても説得力抜群だし、小泉一キャメラマンのセンス爆発だと思うなあ。終盤の地下鉄構内の色彩設計なども、背後に厚く展開する東宝自衛隊をボケ味で使ったメロドラマ的な構図とか、抜群に巧いし、贅沢。撮影所映画の職人技の贅沢さが生きていた最期の時代、本多監督も通常営業で淡々と撮るけど、それでも滲み出る味わい。それが映画監督の「個性」というものだ。大映の森一生なんかに似ていると思う。たぶん、当時そうしたことをちゃんと理解していたのは、日本の観客よりも意外と海外の観客じゃないかと思うのだけど。
■本多監督お得意の「花」を使った演出の流れが見事で、羽田空港の場面は有名だけど、終盤の地下鉄シーンでも画面の端のカウンターに何気なく花がレイアウトされていて、それが次の病室で水野久美の目を覚ます場面でクローズアップして使われる。ラス・タンブリンは自衛隊と一緒に避難するときに地下鉄のホームで一輪挿しを何気なく回収していて、病室まで持ち込んだという流れのようだ。地下鉄の場面は実はもう少し長くて、編集で特撮場面を優先してカットされたのではないか。そもそも、終幕は特撮場面が冗長で、品質的にもちょっと息切れ気味なので、本編をもっと挟み込めば引き締まった傑作になっただろう。地下鉄絡みはロケ撮影とセット撮影の切り返しも非常に見事だし、短い場面でちゃんとたっぷりめの情感を盛っているところは、本多演出の円熟の境地だと思う。だからこそ、そうした素養を東宝としては早くに見切っていて、メロドラマ作家として生かしてほしかったのだろうが。
■たぶんラストは、ガイラにとどめを刺したサンダが、水野久美が呼び返すのを振り切って、ガイラの遺骸を抱えて哭きながら、海底火山の噴火のなかに泳ぎ去るなんて案もあったのではないかと妄想するなあ。なにしろ『カインとアベル』だからね。巨大な神の闘争が、最終的には新たな国土の誕生を促すという、新たな日本神話なのかもしれない。ベッドに傷ついて横たわった水野久美がゆっくりと目を閉じると、東京湾のはるか沿岸にいま巨大な島が姿を現し、盛んに隆起を続けている。サンダの死を悼むというより、水野久美が新しい国土を産み出しているように見える編集になっている。気がするのは、自分だけ?
補遺
■『フランケンシュタインの決闘』(決定稿)を読んだけど、ラス・タンブリンが病院に花を持って現れるのは指示がなく、現場演出のようだ。その前の駅の事務所のカウンターに花が飾ってあるのも完全に現場処理で、監督の指示というよりも、本多監督の趣味を理解した装飾スタッフの自発的な仕事だろう。
■ヘンリー・G・サパースタインの意向で当初はタブ・ハンターが起用される予定だったけど、ラス・タンブリンに交代し、しかもスタッフにもキャストにも不評で、監督の指示を聞かず、セリフを勝手に変更してしまうので、現場は困ったらしい。助監督の谷清次も本当に嫌なやつだったと述懐しているくらいなので、相当やる気がなかった模様。でも完成版は睦五郎の吹き替えが秀逸なのもあって、妙にできが良いのは不思議。
■おそらくアメリカ側から原案が提示されていると思われるけど、今のところ証左はない。クローン設定とか、東宝側から出るようには思えない。一般的には海彦山彦が下敷きだと言われるけど、アメリカから原案がきているなら、むしろ「カインとアベル」だろう。あるいは、東宝の企画担当の原案をアメリカ側に提示して、あまり大きな直しはつかなかったという経緯かもしれない。ああ「カインとアベル」ね、わかりやすくていいんじゃない?くらいの反応かも。
■1966年4月下旬に決定稿が出て、5月初旬から6月初旬にかけて約1ヶ月の本編撮影、7月中旬まで特撮撮影(なんと『ゼロ・ファイター大空戦』と並行作業!)、さらにラス・タンブリンが多くの場面に登場する海外専用場面を追加撮影した。という進行だったらしい。『フランケンシュタイン対地底怪獣』のような混乱は生じなかったようだ。
■終盤の地下鉄周りの夜間ロケ撮影とステージセットの馴染が異様によくできていて、美術班凄い仕事(東宝ならでは)だし、撮影と照明の協働も絶品。黄金期の超大作に比べると規模感は縮小しているけど、質感は高まっている。
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