感想
■1972年のミュンヘンオリンピックで発生したイスラエル選手団襲撃事件「黒い九月事件」(「ミュンヘンオリンピック事件」)の顛末を、ABC放送の副調整室の視点に限定して描いた実録再現映画。スピルバーグが『ミュンヘン』で事件のその後の報復活動までを描いたけど、本作は、たまたまスポーツ班がそのままテロ事件の生中継をすることになったある1日を、報道人の視点から描きだす。そこにテーマを絞る。
■監督はティム・フェールバウムというドイツ人で、アメリカとドイツの合作で、パラマウント配給。独立系かと思いきや、大メジャー配給でした。しかも、ショーン・ペンが製作に参加。
■明らかにポール・グリーングラスの映画を参考にしていると思われ、手持ちのキャメラワークも、編集も実にそんな感じ。でも、キャメラも編集も無駄にチャカ、チャカしていないので、実に見やすいし、REDを使ったデジタル撮影なのに、16㍉撮影かと見紛える古色を出しているのが凄い。ホントにフィルム撮影かと思った。念入りにLUTを作ったのだな。えらい。
■事件が事件なので、カタルシスはなくて、ため息が出るしかないのだけど、もう少しドラマを創作しても良かった気はするなあ。マスコミによるテロ生中継の持つことになる危うさを、はじめてマスコミも認識した事件かもしれない。テロリストがこの生放送見てるぞ!その教訓は確実に表現されているけどね。裏取りを怠った飛ばし報道とか、マスコミ失態あるある。その苦々しさ。
■ABCクルーの中で西ドイツ人女性が通訳兼アシスタントとして在籍していて、非常に有能だし、西ドイツ人代表なので儲け役。レオニー・ベネシュという女優が好演している。今後ハリウッドからオファーがくるよね。さらに女性の技師がいて、撮影済みの16㍉フィルムを即座にモノクロ現像したり、中継映像にテロップを乗せるのに文字をピンセットで拾って、黒バックに貼り付けて撮影して合成するなど、当時のテレビ技術的な部分も点描されるのが非常に興味深い。そうした技術職に女性が従事していたのも意外だった。
■ドイツでイスラエル人(ユダヤ人)が虐殺されることだけは絶対に避けたいという西ドイツの思いと、一方で戦後憲法の制約で事態の解決に軍を出せず警察組織だけで対応するしかないジレンマも描かれ、事件の持つ意味を改めて考えさせる。ドイツ人スタッフが撮ったので、こうした西ドイツのジレンマが描かれたわけで、マスコミの報道姿勢の問題と、西ドイツの未熟だった危機管理体制の問題が、二つの大きなテーマとなっている。主演のジョン・マガロという人、あまり見たことがないけど、だらしない小太り感が妙にリアルで良かったよね。
