ぼくは何のために勉強するのか?生活保護、ヤングケアーの、綺麗事ではすまない「現実」を描く教育ドラマの傑作『むこう岸』

■むこう岸 ★★★★ 
原作:安田夏菜 脚本:澤井香織 演出:吉川久岳 制作統括:齋藤圭介、西村崇、石井智久
出演:西山蓮都、石田莉子、サニー マックレンドン、岡田義徳酒井若菜遠藤久美子森永悠希山下リオ、渋川清彦

■ぼくは難関私立中学をドロップアウトして公立中学に転校したダメ人間だけど、親から高校からは私学に復帰しろといわれて猛勉強中。でも、たまたま街で助けてもらった同級生の女の子は、生活保護の母子世帯で、病気の母親を支えるヤングケアラーだった。生活保護を打ち切られることを恐れて、将来の夢を諦めようとする彼女のために、僕になにかできることはないだろうか?予備校の先生が元ソーシャルワーカーだと知って相談もしたし、気になると調べずにはいられない質なので、分厚い法令集生活保護手帳」をみっちり読み込んでみたけど。。。

■実は児童文学の世界では有名な傑作小説のドラマ化で、 日本児童文学者協会賞、貧困ジャーナリズム大賞特別賞を受賞している。たった73分の中編ドラマだけど、実によくできた社会派ドラマだし、教育ドラマなので驚きました。

■しかも、クライマックスの劇的カタルシスも万全で、とにかく登場人物にメソメソ泣く演技をさせておけば、視聴者はもらい泣きして、ドラマに感動したものと錯覚するだろうという、昨今の堕落した、間違ったドラマツルギーの風潮には目もくれず、ひたすらリアルにハードにテーマを追求する。そして、ドラマならではの本当の感動に帰着する。このドラマのクライマックスで、主人公の少年に少女が投げかける台詞(問い)に胸を突かれたら、それがドラマによる本当の感動というやつですからね。誰もメソメソ泣いたり、号泣したり(ましてや変顔なんて)しませんよ。テーマの訴求と、感情的な高揚が見事に重なってますよ。それが本当の劇的クライマックスですからね。

生活保護を受けることは恥なのか、生活保護は施しをうけることなのか。僕はなんのために勉強するのか、僕には何ができて、何ができないのだろうか。そんな少年、少女の苦悩に見事な解決を投げかける圧巻なドラマ性。それは彼らがたまたま出逢ったことで、互いが互いに何かを投げかけることで、彼らが閉じ込められた迷路に出口の光が灯るのだ。個別の社会問題を扱っているだけでなく、普遍的な人間の成長と、何が人間を成長させるのかということを、実にさらっと描き出した作劇の冴えは、多くを原作小説に負っているのだろうが、なかなかお目にかかることのできない貴重な成果だ。

■ヤングケアラーの少女を石田莉子が演じて、強烈な印象を残す。なにしろ中盤にちょっとあざといくらいの見せ場があるから、演技の基調が強すぎる感じはするけど、とにかく観るものを画面の中から睨みつける、凄い眼力。視聴者は演者に睨み返されているのだ。梶芽衣子の太田雅子時代の風貌そっくりなので、驚くけど。根はいい人だろうけど、頼りになりそうで頼りない市役所の人を演じるのが、少年からおじさんまで年齢不詳で演じる森永悠希。すっかり近年の日本映画とドラマの顔だなあ。

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参考

実は、これもかなりの傑作なんですよ。山田洋次の描く青春映画。
maricozy.hatenablog.jp

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