修善寺物語 ★★★☆

BS2録画 昭和演劇大全集 昭和32年歌舞伎座公演
作■岡本綺堂
主演■夜叉王:市川猿之助(二代目)、頼家:市川寿海(三代目)、中村時蔵(四代目)

■なんと昭和32年の舞台中継をキネコで保存していたというのだから、歴史的資料といえる。名前だけはよく聞く「修善寺物語」が、いったいどんな物語なのかという興味だけで観たのだが、正味1時間弱という中篇劇である。当時、”新歌舞伎”というジャンルに分類された新作歌舞伎。いかにも岡本綺堂らしい怪奇劇でもあるというところが嬉しい。もっとも、小説のように朦朧法で怪奇を描くのではなく、芥川の「地獄変」にも似た芸術家の妄念を真正面から抉り出す。
■この昭和演劇大全集は冒頭に劇作家でもある高泉淳子を相手に、演劇評論家渡辺保がかなり辛らつな解説を行うというのがひとつの見所で、ダークグレイの上品な老紳士の柔らかな語り口を聞くだけで、なんだか有難い気になる。
■頼家に頼まれた面にどうしても不吉な相が現われるのを不審に思う夜叉王が、その後頼家が北条氏に討たれたことを知り、その運命を暗示していたことを悟り、自分の腕前は神業であったと誇るという、芸術至上主義のバカ親父と、高貴な血筋を引きながら山里に埋もれることを潔しとしない長女が頼家の側室にと願って召抱えられた途端、頼家ともども討たれて死ぬが、これも本望と自覚するというバカ娘の、父娘のアッパレな見上げたバカっぷりを謳い上げた変な話である。そこに、綺堂らしい怪奇趣味が綯い交ぜにされた、短いが味わい深い作品だ。バカも極めれば神々しいという、ヲタク礼賛の物語である(嘘)。
■三代目寿海とえいば市川雷蔵の養父として有名だが、はじめてその演技を観ることができた。本作だけではその本領はよくわからないが、渡辺保によれば名優だったらしい。
maricozy.hatenablog.jp

参考

昭和演劇大全集

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修禅寺物語 (光文社文庫)

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