文学座の仲間たち、日活に大集合!出し物は前衛的文芸ポルノだ!『砂の上の植物群』

基本情報

砂の上の植物群 ★★☆
1964 スコープサイズ(パートカラー) 95分 @アマプラ
企画:坂上静翁 原作:吉行淳之介 脚本:池田一朗、加藤彰、中平康 撮影:山崎善弘 照明:高島正博 美術:大鶴泰弘 音楽:黛敏郎 監督:中平康

感想

■化粧品のセールスマン(仲谷昇)は横浜マリンタワーで出会った女子高生明子(西尾三枝子)と関係を持つと、彼女は姉さんの京子(稲野和子)をひどい目にあわせてと言い出す。今度は姉との変態行為にのめり込んでゆく男だが、次第に彼女は腹違いの妹ではという疑惑が膨らむ。。。

■当時、日本中でピンク映画旋風が吹きまくっていた時代、日活映画でも文芸エロ映画路線を模索していた。すでに若き巨匠今村昌平が「重喜劇」と呼ぶ肉厚なエロ映画を制作していたが、同世代の中平康も黙ってはおれず、『猟人日記』に続いて、より本格的な(?)エロ映画を目指した。

■とはいえ、吉行淳之介の純文学なので文芸映画です。しかも、パウル・クレーの絵画を映し出す場面だけカラー、あとはモノクロという異色の映像構成で、これは後の浦山桐郎の『私が棄てた女』に繋がるだろう。お話だけだと完全に後の日活ロマンポルノの先取りで、似たような話はいくつもあっただろう。

■エロ映画といっても、もちろんヌードシーンはなくて、西尾三枝子も稲野和子も脱ぎません。西尾三枝子に至っては日活映画期待の新人なのに散々な目に遭っているわけですね。正直気の毒な感じです。。。

■一方のマダム感たっぷりの稲野和子はノリノリで、さすがに芦川いづみに演らせるわけにもいかないので、文学座からの起用です。(実際は『猟人日記』の好演が評価された。)新劇人として真面目にエロを演じます。しかも濃いですよ。化粧じゃなく、個性が。個人的には後の「ザ・ガードマン」でお色気要員として雑に多用された頃の60年代ファッションが素敵だと思います。通好みの女優さんですね。まあ、当時はホントに軽い気持ちで新劇女優にお色気要素をお願いしていたわけですがね。

■主演は仲谷昇で、同級生が小池朝雄と高橋昌也という、文学座から劇団雲へ移行した頃の演劇仲間が集まって、エロ話が素直に楽しそう。特に小池朝雄が回想する痴漢電車の場面は、なかなかの傑作。小池朝雄の口跡の美しさといやらしさが秀逸で、後の痴漢電車モノのお手本になったはず。痴漢電車もののルーツ、なんとそこには小池朝雄の存在があったわけだ。

■正直お話に云々する面白さはないのだが、主演の仲谷昇は良いよね。全世界の仲谷昇ファンは悶絶するはず。セックスシーンといっても、裸がないので、ほぼ様々な角度から仲谷昇のアップが多用される。当然、照明担当は配光に凝るから、いろんな陰影で仲谷昇が堪能できるという、仲谷昇見本市ですね。通には堪らない趣向です(?)

■正直こういった文芸映画は中平康には似合わないと思うし、演出的にも熟れていない。すでに自身の評価に対する焦りやストレスから飲酒癖が顕著になっていた頃で、ただでさえ調子が出ていないし、そもそもどこまでテーマ(というか映画的面白さのキモ)を理解して撮っていたのかも疑問だ。

参考

稲野和子と言えば『四谷怪談 お岩の亡霊』のお岩様。これは歴史的傑作。そして稲野和子の名演。森一生の恐怖演出も神がかっている間違いなく必見。
maricozy.hatenablog.jp
稲野和子がバクチに勝って高笑い!根岸明美団地の植え込みでキャットファイト稲野和子ファン悶絶、至福の小一時間!
maricozy.hatenablog.jp
原作小説は昔買ったけど、未だに読んでない。。。

映画としては中平康得意のミステリー仕立ての『猟人日記』のほうが面白いですね。
maricozy.hatenablog.jp

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