神々の土地 ロマノフたちの黄昏 ★★★ 

基本情報

2017 宝塚宙組公演 作・演出:上田久美子、作曲・編曲:青木朝子、高橋恵、装置:新宮有紀 @NHKBSプレミアム

感想

■久しぶりの宝塚ですよ。何年ぶりでしょう。といっても、テレビ録画ですがね。いやあ、単純に楽しいですねえ。特に本作は美術装置が華麗で豪壮、さすがに宝塚歌劇という重厚なもので、見ごたえたっぷり。贅沢な舞台です。

■ロシアでロマノフ朝が倒れ、共産主義革命で貴族たちが没落してゆく様子を新鋭上田久美子の作、演出で流麗かつ重厚に描く。もっと悲壮な悲劇を予想していたのだが、意外にもというか、宝塚らしくというか、綺麗なメロドラマとして締めくくる。一方で、これまた宝塚の伝統(?)のマイノリティー劇としての側面もあり、ジプシーたちがボルシェビキの中心として登場するし、ラスプーチンを虐げられた下層民の王朝に対する怨嗟が凝り固まった悪霊的な存在として描く。宝塚歌劇のこうした歴史の正史には登場しない名もないマイノリティに対する執念がいったいどこから来たものなのか、誰か研究してほしいと個人的には思う。

■さて、ロマノフの血を継ぎ、ニコライ二世の次の皇帝に擬せられるドミトリーと大公妃イリナの秘められたプラトニックな悲恋が、革命前夜の幻のクーデタ―計画やラスプーチン暗殺事件などを織り交ぜて描かれるのだが、政治劇の非情なメカニズムについては案外淡白で、ここをもっと悲壮に描いてくれるとおじさんは楽しいのだが、本作の肝はそこではなかった。

■上田久美子の本当の興味はどうも皇女オリガの悲劇にあるのではないか。世間知らずなお嬢さん育ちと思われがちな出自ながら、実は聡明で政治的な判断もできる知的な女性であったことがサブ・エピソードとして描かれる。ドミトリーとの縁談話ではイリナとの三角関係に苦しみ、ラスプーチン暗殺事件を巡ってある意志的な選択を行い、ロシアの民への怨念に凝り固まった母アレクサンドラにロマノフ王朝を延命させるための現実的な建議を提案するが、最終的には肉親の情に勝てず、母とともにロシア革命の露と消える若い才能として描き出す。わたしの勝手に期待した悲壮で壮麗な悲劇としての作劇の肝はここにあったのだ。人間には制御できない時代の大きなうねりに押しつぶされる若い才能という、典型的な悲劇の構図がここに塗りこめられている。

■ここ何年か宝塚歌劇は観ていないので知らなかったが、上田久美子という人はなかなかの逸材らしい。本作は美術、衣装、装置、どれも壮麗で華麗なものだし、舞台転換のケレンも素晴らしい。伶美うららという人も初めて見たけど、夢のように儚げで美しい。ただ、ラスプーチンという難役を演じた愛月ひかるは力及ばずという感じ。あれは、なかなか難しいでしょう。