実は猛烈な円谷プロ批判の書『白組読本』

■著者の公野勉氏は平成ウルトラシリーズの頃に円谷プロに在籍していた人で、その後東北新社でプロデュ―サーを、ギャガや日活で配給を担当している人なのだが、本書ではなにかと白組と円谷プロを比較しているのが読みどころで、おもしろい。

■公野氏はよほど円谷プロには遺恨を含んでいるようだ。具体的には、平成ウルトラ時代に、監督連中が全く予算度外視で動くのが腹に据えかねたらしい。確かに、テレビシリーズの制作が動き出すと、少々赤字出しても長期的に取り戻せばいいという考え方で品質の方を取るのが円谷プロの、良くも悪しくも伝統なので、経理的に馴染めない生真面目な人はいるだろうね。実際、そのせいで円谷プロは買収されて創業一族は追放されてしまったわけだからね。

■そして白組はスタジオも機材も全部自前で整備して、小さいながら最新鋭の制作機能を当初から持っていて、それが最大の武器で生命線なんだけど、円谷プロって、今に至るまで一度も自社スタジオすら持ったことがなくて、特撮技術を売って商売するという考え方も、なぜか無いのが特徴。

■創業当時こそ市川崑の日活映画の特撮場面の制作だけ請け負ったりしていたが、すぐに自社製作のウルトラシリーズで大当たりをとったから、特撮場面だけ請け負いなんてけち臭いとこはやってられないということだったのだろう。『西遊記』の特撮場面だけの請負なんて例外中の例外で、しかも品質重視で自社製作作品と同じノリで採算を度外視して撮影してしまうせいで、最初の頃の数本で外されてしまうからね。そういう意味では、白組と比較すべきは、スタジオも持っていて、技術スタッフで組織された日本現代企画ではないか。そもそも円谷プロからリストラされた主要な技術スタッフが創立した会社で、事実上円谷プロの分家。自社製作もあったけど、特撮場面だけの請負も積極的に行っていたよね。

■ほんとは円谷英二は円谷(特技)プロでそんなこともしたかったろうが、円谷プロは事実上ずっとキャラクタービジネスの会社である。白組とはそこが根本的に異なっていて、白組は映像制作技術や立派なインフラはもうすでに持っているし、社内に山崎貴のような作家(「特殊社員」だそうです)も抱えているから、円谷プロのように著作権ビジネスで恒常的に潤いたいなあというのが今後の戦略なのだろう。

■そもそも、本書でも繰り返されるように映画のVFXだけの請負は予算的なしわ寄せを食らいやすく、商売としては旨味が少なくて、下手するとすぐに赤字になってしまうから基本的に積極的には手を出したくない商売なんだそう。だから円谷プロILMになろうとしなかったわけだね。あの著名なピクチャー・エレメントの唐突な倒産の報道を見るにつけ、リアルにそのとおりなんだなと納得した。
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