感想
■カート・ヴォネガット・JRの名作SF小説をジョージ・ロイ・ヒルが映画化したもの。原作小説はむかしむかし読んでいるはずで、断片的になんとなく覚えているが、既に記憶は曖昧。いや、読んだのは『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』だった気もする。
■なんとなく名作ということだけ聞き知っていた本作、主人公、ビリー・ピルグリムがナチスの捕虜になってドレスデン爆撃に遭遇して生き延びるという原作者の実体験をベースに、生と死と宇宙と時間の運命について自在な話法で物語るSF映画だった。その話法じたいは公開当時はかなり斬新だったろうが、いま観るとすんなり理解できる。なにしろトラルファマドール星人が宇宙が消滅する運命を明かし、主人公を拉致するや、お気に入りのポルノ女優と番わそうとするのだ。
■しかも、音楽がグレン・グールドのゴールドベルク変奏曲なので、前線の非情で殺伐とした情景も、変な宇宙人が接触してきても実に典雅なイメージを醸し出す。音楽がこの映画のイメージを決定づけていると思う。
■人生のいかに過酷で残酷な運命も、また生き延びたとしてもいずれは死する運命であることも、すべては風の中の羽のような寄る辺なさだけど、悲観することもないよ、もともとそんなものだからね、と耳元に優しくささやくのだ。この歳になるとまったく、映画の言っていることがするりと腑に落ちる宗教的な映画。
■想い出した。やっぱり原作、読んでないね。