■お話の細部はSF的なギミックが大盛りなのだが、テーマは非常に現代的というか、SFの体裁をとっているが、ゼロ年代の世界状況(政治、経済等)に対する批判的総括となっているところが、とても興味深く、読み応えがある。そして、アクション小説としてもツイストが効いている。
■しかし、最大の欠陥は虐殺器官とか虐殺の文法というメインアイディアが十分に描ききれていない点にある。読者としては、そこにこそSF的なアクロバティックかつ奇想天外な理論の構築を期待するわけだが、それははぐらかされる。その部分は、SF的というよりも、魔術的なものとして扱われているような気がするのだ。せっかくの卓越した着想なのに、勿体無いと思う。
■世界中の途上国で虐殺を引き起こして回るジョン・ポールという男の設定には高木徹の衝撃作『戦争広告代理店』に多くを負っているだろう。ネタ枯れのハリウッドでそのまま映画になりそうな小説だが、さすがにその勇気はないだろうな。