ヒミズ ★★★

ヒミズ
2012 ヴィスタサイズ 129分
Tジョイ京都
原作■古谷実 脚本■園子温
撮影■谷川創平 照明■金子康博
美術■松塚隆史 音楽■原田智英
監督■園子温

■日本映画界の風雲児、園子温の映画を観るのは実は初めてで、テレビでは「時効警察」を観ているのだが、何しろ話題作なので、恐る恐る観にいってきた。
■確かに、演出はエネルギッシュで、映画力は相当のものだ。何故か80年代日本映画を席巻した相米慎二五社英雄の映画を想起させる部分が多いし、そういえば、池田敏春の映画にも似ている。制作費は少ないはずだが、映像的には貧乏くささが無く、谷川創平のキャメラは非常にセンシティブで頼もしい。手持ちのヴィヴィッドなキャメラワークから大クレーン(?)の長廻しまで八面六臂の大活躍だ。

■しかし、住田君を絶望感に追いやる作劇のリアリティラインのありどころが不明瞭で、それほどの絶望感に感じられず、一方の茶沢さんの家庭の事情もあまりに突飛で、しかもエピソードの決着が語られないから、非常に居心地が悪い。このあたりは、ひょっとすると、完全版とかいって、DVDで長尺版を出す魂胆かもしれない。住田君が街で遭遇する通り魔たちのエピソードも、あまりに空想的で、実在の事件を下敷きにはしているのに、リアリティが迫ってこない。

■実際のところ、若手監督の意欲作であれば、演出の熱さで支持できたと思うのだが、園子温はもうええ歳のおっさん監督なので、もう少し大人な作り方があろうと思うぞ。それは特に作劇の部分で、プロの脚本家に書かせれば、もっとオーソドックスなものになったろう。渡辺哲の犯罪がお咎めなしというのも、気持ち悪いぞ。まあ、大林ワールドみたいな、園ワールドと受け止めるべきなのかもしれないが。

■でも、この映画の一番の問題は、東日本大震災の被災地でのロケをナイーブに取り入れてしまったことだろう。正直なところ、この部分は安易だと思う。作者が取り乱しているようにしか見えない。消化しきれないことを承知の上で、でも今はこうするのが一番誠実なのだと考えたのかもしれないが、映画の訴求力を却って殺いでいると思う。住田くんと茶沢さんの辿るどん詰まり感を掘り下げるべきだったと思う。


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