■アイルランドの片田舎での三角関係の不倫劇を、70ミリ撮影による雄大な自然描写の中に描き出した、巨匠デビッド・リーンの超大作。実に小さな、敢えて言えば陳腐なメロドラマを、無理やり壮大なロケーションで描き出そうとする狂気に似た巨匠の情念に惹かれる。RYAN'S DAUGHTER
1970 スコープサイズ 約200分
DVD
■封切り当時の酷評も、さもありなんと納得できる部分も多いが、セックスとバイオレンスの時代を通り過ぎて、改めて冷静に見直すと、奇妙な魅力に溢れていることが感知されたということだろう。
■雄大な自然を背景とするといっても、人間と自然の対峙といった要素は描かれず、アイルランドの寒村の住民たちの日常生活が描かれるわけでもない。3時間もかけて、いったいどれだけのことが描けているかといえば、実に心もとない。同じことは、「ドクトル・ジバゴ」にしても言える事で、デヴィッド・リーンの真意はどこにあったのだろうか。
■それでもモーリス・ジャールの秀逸な楽曲とともに忘れがたいシーンが幾つもあるし、それらはさすがに余人の敵うものではない凄みを感じさせるのが、デビッド・リーンの難儀なところ。アイルランド独立運動を大きく扱いながら、それらに加担する人間を単純には肯定しないという政治的スタンスにも微妙な翳りを感じさせ、公開当時評価されなかったこともやむを得ないだろうと感じさせる。
■心身障がい者を道化役に使っているのも、今日なかなか広く見られない原因なのだろうが、非常に魅力的で重要な役なので、これにケチをつけるのは筋違いだと思うがなあ。何しろ、ジョン・ミルズがアカデミー賞の助演男優賞もとっているのだ。