迷子 ★★★☆

■脚本・前田司郎、音楽・BANANA、演出・中島由貴
■NHK大阪のスペシャルドラマといえば、「その街のこども」がなんと劇場公開されたことも記憶に新しいが、またまた新たな佳作が生まれた。前田司郎の舞台はNHKで「さようなら 僕の小さな名声」を観たきりだが、ドラマは舞台とはまた違ったユニークさを見せる。

■迷子になったらしい中国人の老婆を中心に、彼女にかかわってゆく若者たちの独特の生活感を並列的に描いてゆくのだが、ドラマははっきりとした焦点を結ぶことなく終わる。それだけの物語なのだが、これが実に映画的な演出となっており、けっこういい映画を観た満足感を味わってしまった。

■前田司郎の台詞が実によく変な生活感を掬い上げており、特に南沢奈央と弟の長いやりとりなど、撮影の呼吸はまさに映画そのもの。南沢奈央という若手女優は初めて知ったが、実に上手いので吃驚した。ホームレスのおじさんを演じているのが、レッツゴー三匹逢坂じゅんというのも、クレジットを見るまで分からなかった。あまりに力の抜けた訥々とした演技にも驚かされた。

■「その街のこども」もかなり良かったのだが、最後にクライマックスを作ろうとする部分で少々作為が浮いている気がしたが、このドラマにはそうした無理がなく、迷子の老人に関わった若者たちのその後の人生のありように自然と想像力が喚起されるようになっている。中島由貴という演出家もなかなかの逸材らしい。

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