阿刀田高著『夜に聞く歌』

■これは古本屋で買った古い文庫だが、どうも総じて調子が低い。傑出した作が無い。文章表現も少々荒く、アイディアも単調だ。

■あえて一編を選べば、「笑」という作がちょっと面白い。白昼堂々と女の幽霊が現れ、かつて関係のあった男の四十九日の法要で、ものすごい笑いを残して消えるという事件を描き、幽霊は何のために出現したのかという謎を阿刀田風に解決してみせる。

■「湯」という作は、阿刀田お気に入りの秘湯もののヴァリエーション。山間の幻想的な秘湯に迷い込むと現世に帰って来れなくなるという一連の現実逃避的な幻想譚に属するもの。ただ、構成が非常に単純で、プロトタイプ的な作品だろうか。

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