騙されたと思って『若おかみは小学生!』を劇場で観るべき、たった1つの理由

基本情報

若おかみは小学生! ★★★☆
2018 ヴィスタサイズ 94分 @Tジョイ京都
原作:令丈ヒロ子 、 亜沙美 脚本:吉田玲子 美術設定:矢内京子 作画監督:廣田俊輔 音楽:鈴木慶一 監督:高坂希太郎

感想

■いかにもブログの記事にありそうなタイトルで煽ってみましたが、めんどくさいからその理由はあっさりと明かしますよ。かなり良くできたクオリティの高い良質なアニメ映画で観ないと損するからですよ。絵コンテと監督を兼ねるのが高坂希太郎という人で、もともとはジブリ系の人ですが、宮崎駿高畑勲の呪縛からいい具合に距離を置いていて、ポストジブリの最右翼といって過言ではないでしょう。しかも、マッドハウスの制作なので、アニメのクオリティが非常に高い。以上、タイトルに関する説明は終わり。

■さて、突然の交通事故で両親を亡くした小学生が祖母の経営する温泉旅館に引き取られ、若女将として修業しながら成長してゆく様子を季節の移り変わりの中で丁寧に描くというお話で、しかも、交通事故の影響なのか、幽霊や妖怪が見えてしまう特異体質になって、彼らの助けを借りながら、女将修行や人間関係を乗り切ってゆくというファンタジーでもある。さらに、突然の交通事故で自分だけが生き残ってしまったために両親の死が腑に落ちない状態が続き、幽霊たちが見えるのと同じ感覚で、両親との生活がまだ続いているように幻視してしまうという中途半端な状態でもある。そんな非常に複雑な状態に置かれた小学生の女の子を描くという、相当無理難題な高難易度の映画である。

■ところが、ベテランの吉田玲子がこれを脚本で綺麗に捌くし、監督の高坂希太郎がアニメらしい感情表現を丁寧に描き、大人にもするりと腑に落ちる話に仕立て上げた。これだけ盛りだくさんのキャラクターや特異な状況設定を万遍なく盛り込みながら、ヒロインおっこの「喪の作業」というかなり難易度の高いテーマ設定にブレを生じず、むしろ大人の心に響く映画になっている。両親の死が納得できていない主人公が両親の死を真に受け入れて、友達たちとの現実世界に着地するクライマックスは感動的で、常に前向きで溌溂としたおっこという小学生の女の子が魅力的だ。温泉旅館のライバルとして登場する”ピンふり”(ピンクのふりふり!)との対立と理解のプロセスも、定石通りながらよく描けている。”ピンふり”の振り切れたキャラクターも楽しくて秀逸。

■「喪の作業」のプロセスがイコール心のレジリエンスの物語になっていて、近年自然災害が多発し、確実に増加しているはずの、肉親を理不尽に亡くした子どもたちへの元気づけという意図が込められているに違いない。いかなる理不尽な災害や不幸にも”心”はたやすく折れたりはせず、曲がったりしなったりしながら、強烈な、暴力的なストレスをいなして、いつかはしなやかに回復してゆく。そしてその時に人間の魂は大きく成長している。そういう魂のレジリエンスの物語として、本作は構想されている。今、この映画を作る意義をそこに見出しているに違いない。何がヒロインの心のレジリエンスに作用するのか、この映画を観るときのポイントはそこにある。

■旅館に訪れる様々なユニークな客たちがこのシリーズのバリエーションだが、謎の女占い師グローリー水領にはさすがに魂消たけどね。突然違う映画が始まったかのような異様な登場で、どうなることかと思ったが、実は重要な役柄で、おっこを外に向けて開いてゆく。失恋を花の湯温泉によって癒された大人の女が少女を変えてゆく。明らかに性的な意図を持った場面となっている。そして、その性的要素は確実にヒロインのレジリエンスに寄与している。

■ライバル”ピンふり”との和解と調和、そして生と死の曖昧なせめぎあいの中に躊躇していたおっこが厳しい現実と折り合いを見つけ出してゆくクライマックスは、やはり感動的だし、アニメ技術的にも非常に気持ちいい。ただ、おっこが明るく元気な女の子なもので、現実の「厳しさ」の部分が弱いのが玉に瑕かもしれない。

↓ これは、ほとんど脚本そのものですよ!当たり前か。↓ 映画のコマ焼き(死語?)多数なので、楽しいですよ。そして泣かされますよ!

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