天はすべて許し給う  ★★★

ALL THAT HEAVEN ALLOWS
1955 ヴィスタサイズ 89分
NHKBS2

■絵に描いたような典型的なメロドラマ。せっかくのテクニカラー作品なのに、原版は正規のテクニカラープリントではなく簡易プリント版らしく、テクニカラーならではの人工的な色彩美が台無しで、人工着色に見えてしまう。NHKは一般的に上質な放送原版を使うのだが、今回はアメリカにも状態のいいプリントが無かったのだろう。

■演出の流麗さはわかるが、クライマックスでロック・ハドソンを襲う事故は失笑を誘うし、鳩や鹿を重要なモチーフに使用した意味もよく分からない。アメリカナイズされた郊外の住宅地の息苦しい人間関係と自然の麓で独自の世界観と人生観に基づいて生きる男の世界を対比させるために牡鹿も登場するのだろうが。そういう意味では、ステロタイプなメロドラマなのに、奇妙に心に引っかかる細部にあふれた変な映画である。

■一方水車小屋の場面設定は秀逸で、大きなガラス窓を使った演出はハリウッド映画ならではの豪華さ。そのガラス窓の外に牡鹿が出現することになるのだが、この鏡や窓を使った演出は、観客が観ているスクリーンの存在を意識させることになるだろう。

■本作で衝撃的なのは、後半でヒロインが息子からプレゼントされるテレビの存在感である。瀟洒なリビングに、か細い四本足で立ち、場違いな存在感を醸し出す、その異様なシルエットは、50年代に量産されたSF映画の侵略者や怪物そのものとして描かれている。映画製作者がテレビに抱いた恐怖感がそのまま映像化された稀有のシーンといえるだろう。

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