アレクサンドリア ★★★☆

Ágora
2009 スコープサイズ 127分
NHKBS

アレクサンドリア [Blu-ray]
■4世紀ごろのエジプト、アレキサンドリアを舞台に、宗教対立の中で命を落とす実在した一人の女哲学者の姿を壮麗な舞台装置の中で描く力作にして意欲作。監督のアレハンドロ・アメナーバルといえば怪奇映画『アザーズ』のあの人ですよ。
■とにかくこの手の史劇ではキリスト教受難劇が基本パターンなのに、完全に逆転してみせた意欲は立派なもの。史実がそうだったので当然といえばそうだが、よくぞとりあげたものだ。しかもヒュパティアという科学的な真理を追い求める女性哲学者の姿を鮮烈に描き、メロドラマ構成ながら、骨太で批評的な演出で、かなりよく出来ている。
■とにかくアレクサンドリアで弱者を取り込みながら拡大し、古くからの土地の神を否定し、ユダヤ教徒と対立する過激なキリスト教徒の姿は、非常に批評的で、寓意に富む。アレクサンドリアの図書館を破壊する蛮行は科学的真理の追究の否定として象徴的だし、今も世界の各地で似たようなことは行われている。
■科学的な真理のみを信奉する姿勢はアレクサンドリアキリスト教の勢力で塗り固めるためには支障となると考えると、彼らは彼女を無残に殺そうとするのだが、ここに映画の創作である彼女を慕い続ける奴隷出身のキリスト教徒が登場し、メロドラマとしては上出来の趣向が凝らされるのだが、何故か演出的に上手くいっておらず、かなり間抜けな段取りになっているのはとても残念だ。ここがもっと的確に描ければ傑作になっていたのに。
■繰り返すが、キリスト教徒の受難ではなく、キリスト教徒のもたらす災厄を描出したのはまことに立派。奴隷の若者とか栄達のためにキリスト教に改宗するオレステスとか、男たちの描き方はどれもシニカルで、生き残るために現実に適応しようと汲々としている。観ていて身につまされる痛々しさがある。

参考

↓ 脚本に参加したマテオ・ヒルが脚本と監督を兼ねた傑作。必見ですよ!
maricozy.hatenablog.jp
↓ アメナーバルといえばコレでしょ!古典的怪奇映画。忘れないでね!
maricozy.hatenablog.jp

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